Familie

島の両親とはこれが初対面だと云うのに
妙に懐かしさが胸に込み上げてくる。

優しい声、表情と言葉。
俺が一番欲しかったもの。
この人達は、俺が態々それを態度に示さずとも
一番いいタイミングでそれを与えてくれた。

島の人柄がどの様に形成されてきたのかが
今更ながらによく解る。
正に【この親にしてこの子あり】なのだ。

「進君、よく来てくれたね。
 狭い所だが、今日から此処を自分の家と思って
 自由に使ってくれて良いからね」
「そうよ、進君。
 遠慮などせず、ゆっくりして頂戴」
「は…はい。有難う御座います」
「進兄ちゃん!」

奥の部屋から飛び込んで来たのは…
丁度初めて島、いや…当時はダイちゃんだが…
彼と出会った頃の俺達を髣髴とさせる少年だった。
勢い良く俺の胸元に跳び付くと
そのまま甘える様に抱き締めてくる。

「お帰りなさい!
 大介兄ちゃん、進兄ちゃん!」
「ただいま、次郎。
 元気にしていたか?」
「うん! ちゃんとお利口に待ってたよ!」
「そうか、善い子だな」

弟である次郎の髪を優しく撫でながら
島は漸く、普段とは違う
もっと優しげな微笑を浮かべていた。
この表情こそが俺の最も愛する顔。
あの頃と全く変わらない、
ダイちゃんが見せてくれた笑顔だった。

「次郎、良かったな。
 進兄ちゃんも一緒に
 帰って来てくれたから」
「うん! 僕、待ってたんだ!!」

次郎は俺の腕の中から
移動しようともせず、
そのまま満足そうな顔を浮かべて
俺を見つめていた。

俺も又、初めて出来た【弟】の
温もりを確認するかの様に
何度もその小さな体を
そっと抱き締めていた。

* * * * * *

両親を亡くしてから
俺は初めて
充実した時間を送れた様な気がする。

心地良い体験の数々。
何よりも嬉しかったのは
こんな俺を【家族】として
さもそれが当然とでも云う様に
受け入れてくれた事だった。
此処では誰も俺の事を
【お荷物】だとは言わなかった。

至らぬ時は本気で怒ってくれたし
何時だって愛情一杯で接してくれた。
沢山褒められたし、喜んでもらえた。

島や次郎とは時々喧嘩もしたが
直ぐに仲直りして笑い合っていた。

守兄さんは何も教えてくれなかった。
だけど、それがこの島家では
当たり前の様に容易く経験出来た。

長期休暇で帰省する事が
何よりも楽しみになった。
島と共に里帰りする事が
待ち遠しくなる位に、
俺は確かに心身共満たされていたのだ。

島は俺に最高の贈り物をしてくれた。
そう…俺が切望して止まなかった
温かな【家族】を。

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SITE UP・2010.10.01 ©Space Matrix

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