Vertriebene・1

深き森。
松明の灯を頼りに歩を進める。

酷く疲れ切った表情を浮かべ
一人の青年が薄暗い空を見上げた。

木々の間より見えるは碧き月。
何とも心許ない光。

「ススム」

不意に声を掛けられ、
少しだけ顔を上げてみる。

ススム。
それが、彼の名前。

「少しは飯を食わないと。
 この先の旅、そんな状態じゃ保たないぞ」
「……」
「茸のスープだ。温まるぞ。
 これを食って力を付けろよ」
「……!」

差し出された木製のカップを
手で思い切り払い落とし、
ススムは目の前に立つ人物を
無言で睨み付けていた。

「ススム…」
「どうして俺を責めない?
 どうして俺なんかに優しくするんだ?!」
「……」
「俺を哀れんでいるつもりなのか?
 村を焼かれたのは…
 俺の所為なんだぞ、ダイスケ!!」
「ススム…」
「俺なんかを匿うから…お前達の村は……」

「それは…違う」
「…?」
「俺達はずっと前から覚悟していた。
 こうなる事を…な」

ダイスケと呼ばれた青年はそう呟き、
そっと目を閉じる。

「お前やアキラ、アルフォンこそが…
 本当の被害者なんだよ、ススム……」
「何故?」
「……」
「何故かは、言えないと?」
「それは…済まん……」

ダイスケは下唇を噛み締め、
苦しそうにそう返答するのがやっとだった。
自身の右手を左手でギュッと握り締め
何かを耐えているかの様に。

「答えろよ、ダイスケ」
「ススム……」
「此処では場所が悪いと言うのなら…
 そうだな、あの岩陰に移動すれば良い。
 あの場所なら、誰も俺達の声は聴こえない」
「……」
「お前がそうやって、何も話してくれないのなら…
 原因が何なのかを教えてくれないのならば、
 俺はこれからも、何も口にしないから」
「ススム……」

卑怯な手段だったのかも知れないが、
ススムはそうまでしてでも納得したかった。
その上で、自分が進むべき道を
しっかりと見出したかったのである。

ダイスケの表情は相変わらず固いままだ。
何も食事をしないとまで宣言されては
流石に彼も心穏やかには成れないのだろう。

かといって、焼き討ちの理由を簡単に口には出来ない。
これはダイスケの一存で決められる問題ではない。
村全体の存亡に関わる重大な秘密なのだから。

ススムは視線を反らす事無く見つめてくる。
ダイスケも又、その目を見つめ返す。

謎を解明したいススム。
そして、秘密を保持したいダイスケ。

互いの思いが相容れぬまま
無情にも静かに時間が流れていった。

[0]  web拍手 by FC2   [2]



SITE UP・2010.10.10 ©森本 樹

【書庫】目次