No. 026:流れる糸

散文 100のお題

追手を巧く撒けた様だ。
男は安堵の息を吐く。

「動きが派手になってきたな。
 最早一刻の猶予も無し、か」

男は懐から一枚の紙を取り出した。
それに息を吹きかける。

急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう

紙から浮かび上がり形を成したのは
小柄な黒猫だった。

「頼むぞ。追手に悟られぬ様」

黒猫は声も音も立てずに頷くと
そのまま何処かへと走り去って行く。

「さて。もう少しお散歩の続きでもするかな」

男の表情から緊迫感が消え去る。
それと同時に
男の目は好戦的で力強いものに変化していた。

* * * * * *

「うわっ!」

不意に風が吹き上げた。
首に巻いていたストールから
何かが風に流されて空へと飛んでいく。

「あ、糸か」

解れた黒い毛糸の一部が風に流されたらしい。
そう思った直後。

「?!」

毛糸は丸い物体へと変化し
弦耶の腕の中にスッポリと納まった。

「にゃあ~」
「へっ?」

黒猫、である。
手品じゃあるまいし。
弦耶はそう思い、猫をマジマジと見つめた。

「お前…誰かの式神?」
「にゃ~」

弦耶の言葉を肯定する様に
猫は頭を彼の腕に擦り付ける。

猫の主が誰か迄は判らない。
誰が、どう云う理由で。

(それだけの能力ちからを持つ奴が
 見ず知らずの人間に救いを求める為に
 リソースを削ってまで式神を飛ばすか?)

弦耶は式神を所持していない。
実際に自分が所持していたとして
そこまでの事が出来るだろうか。
或いは、するだろうか。

いずれにしても彼の答えは『NO』だ。

(デメリットが多過ぎる)

安心して自分に身を任せるこの幼い猫を
大切に抱き、優しく撫でながら
弦耶は一先ず蓮杖神社に向かう事にした。
自宅や職場よりも守りが堅固なあの場所なら
この黒猫を保護する事には最も向いている。

「お前、腹減ってない?
 良い所知ってんだ。
 一緒に行こうぜ。
 俺も腹減ったし」
「にゃあ~!」

ゴロゴロと喉を鳴らしながら
黒猫は嬉しそうに鳴いた。

* * * * * *

「「可愛い~~~!!」」

愛らしい黒猫を一目見て
望央と千里が同時に声を上げた。

「どうしたの、弦ちゃん?
 拾ったの?」
「誰かの式神っぽい」
「あら。
 じゃあ、何かお役目を担って来たのかしら?」

こう云う事なら十六夜が詳しいとばかりに
千里は夫の姿を探すが
生憎、十六夜は今 外回り中だった。

「どうする? 飼うの?」
「家にはもう3匹居るからねぇ…」

ペット扱いされた三体の式神は
誰も彼も渋い顔をしている。

「弦に随分懐いてるわよね、その仔」
「そうか?」
「うん。私達よりも」
「……」
「波長が合ってるんじゃない?」
「霊気の、か?」
「うん」
「……成程、な」

弦耶は暫し考え込むと
腕の中に納まっている黒猫に問い掛ける。

「お前、俺の式神になるか?」
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お題提供:泪品切。(管理人名:yue様)