| [5] プラスマイナス |
|---|
|
薄暗い一室で銃声が木霊している。 射撃練習場で北条は一人、何発も的に撃ち続けていた。 しかし狙いは思惑を外れ、まともに当たりさえしない。 「くそっ!」 怒りに任せ、引き金を引こうと右腕に力を込めた瞬間 誰かにふとその腕を触れられた。 「…リキさん」 手の正体は松田だった。 「何苛立ってんだ、ジョー?」 「べ、別に苛立ってなんか…」 「全弾命中しないってのはよっぽど集中してない証拠だ。 まぁ見てな」 松田はそう言うと愛用の44マグナム8インチを取り出した。 一呼吸置き、一気に引き金を引く。 大音響が部屋中に木霊し、銃口からは静かに煙が立ち込めていた。 言うだけの事はある。 弾は見事に標的を撃ち抜いていた。 「たった一発でも集中すればこんなモンさ」 北条は黙って項垂れている。 「そんなに彼女の存在は不服か?」 図星を付かれ、思わず北条は顔を上げる。 怒りなのか照れなのか、とにかく顔は赤面していた。 「素直じゃないな、お前」 それが何を意味しているのか、松田には解ったらしい。 クックッと小さく笑みを漏らす。 「不服では無いんだよな」 「自分は……!」 「まぁまぁそう青筋立てなさんな」 生真面目な北条の事である。 あまりからかうと本気で怒り出すのだから堪らない。 適当に怒りを散らさせようと松田はポンと肩を叩いた。 「こんな硝煙臭い部屋に籠もるから陰気になるんだよ。 ほら、出た出た!」 抵抗する北条の意を無視するかの様に 松田は彼の首元を掴むと そのまま外へと連れ出していった。 捜査一課では源田が何やら 机に向かって作業をしているだけで 他の姿は見当たらなかった。 「ゲン。ヤマか?」 松田の問いに源田は首を横に振る。 「パトロール」 「へぇ〜。ハトと一兵がねぇ…」 「咲樹も一緒だぞ」 『咲樹』の名前に鋭く北条が反応する。 ピクッとこめかみが動くのを 松田も源田もバッチリ目に収めていた。 「全く、素直じゃねぇ奴」 源田にも同じ台詞を吐かれた。 解っていないのは本人位だろう。 「車の運転がイマイチ苦手だからって言ってたから 今は一兵と一緒に回ってるよ」 「…そうですか」 一件興味なさそうな返答の北条。 表情は思い切り『つまらない』と出ているのに。 「そんなに気になるのか、彼女の事が?」 「沢渡女史ですか?」 返ってきた言葉に源田は驚き、松田は顔を顰めた。 「沢渡女史ぃ〜?」 「お前、本人を前にしてもそう言うつもりか?」 「変ですか?」 「……」 松田と源田は顔を合わせて溜息を吐いた。 「喧嘩売るつもりか?」 言葉を辛うじて繋いだのは源田である。 「別に自分はそんなつもりじゃ…」 「お前にそのつもりが無くてもなぁ〜」 「ゲン、落ち着け」 只でさえ肉弾派の2人である。 このままエキサイトすれば 殴り合いの喧嘩が勃発しかねない。 松田は煙草を口に銜え、 「言葉だって立派な凶器になり得るんだぞ」 それだけを告げた。 「結構勉強になったわ」 署の前に着いた黒パトを降りながら 咲樹は笑顔を浮かべていた。 赴任したとはいえ まだ捜査エリアが頭に叩き込まれた訳ではない。 地理が解らない様では 足の捜査で早速お荷物間違いなしだ。 「お役に立てて光栄です、姫」 戯け調子で平尾が返す。 本人にとっては 思わぬチャンスであったに違いない。 元々女性に丁寧な点に掛けては 鳩村に引けは取らない。 バイクよりも車の方が落ち着いて景色も確認出来ると 咲樹が自分を指名してくれた事はとても嬉しかった。 自分と同じ年頃だろうが (女に年齢を聞くモノではない) 咲樹は非常に落ち着いていて、 気の利くタイプに感じた。 「あ、僕の事は『一兵』で良いからね」 道中何度か「平尾さん」と呼ばれ 思わずハンドルを切り損ないそうになった なんて言えないが 咲樹の「OK」と言う返事を聞いて 漸く自分も彼女と仲間になれたのかな、等と 平和な気分で一杯の平尾であった。 「デレデレすんなよ、一兵」 その後、しっかり鳩村に釘を刺されたのは 言うに及ばずだ。 |