| [51] 失った存在 |
|---|
|
寂しくて、苦しくて。 泣くしか出来ない。 叫ぶしか出来ない。 堪える事が出来ない。 この喪失感は何だろう。 松田が居ない。 それだけが…彼等を苦しめた。 夜が、重い。 心が…寒い。 あの笑顔は…もう帰って来ない。 逝ってしまった。 自分達を残して。 その悲しみだけが軍団の心を去来する。 何故救えなかったのか。 自分を幾ら責めても、もう遅い。 松田は…もう帰って来ない。 男達は夜の街を彷徨った。 悲しみを引きずったまま…。 明け方。 誰ともなく西部署に戻ってくる。 その階段で座っている一つの影。 咲樹だった。 「…咲樹」 「お帰り、皆」 咲樹の表情は変わらない。 あの時も取り乱す事無く冷静に 咲樹は松田を看取っていた。 「お前、何時から…」 鳩村が手を取ると 咲樹の手は氷のように冷たかった。 「皆が帰ってくると思ったから」 「夜中じゅう、此処に?」 平尾の問い掛けに 咲樹は笑顔で首を縦に振った。 「莫迦だな…」 源田はそう呟くと 咲樹をそっと抱き上げた。 「え? ゲンちゃんっ?!」 「お姫様に風邪引かせちゃ リキに申し訳立たねぇ…」 「…ありがと、ゲンちゃん。皆」 咲樹は優しく微笑んでいた。 その目元の光に気付いた者は居ない。 そんな余裕は、 まだ彼等に生まれていなかった。 「リキの為に…呑むか」 源田は外から買ってきたのであろう一升瓶を 派手な音を立てて開けた。 「リキさんの為に…」 「湯飲み湯飲み…」 松田愛用の湯飲みをそっと差し出す平尾。 咲樹はソファに腰掛けながら 男達の宴を見つめていた。 優しかった松田。 兄の様だった松田。 こんなにも慕っていた。 『姫』と優しく囁く声。 あの声にももう…会う事は無い。 「咲樹…さん…」 咲樹の異変に漸く北条は気付いた。 無意識に零れ落ちる涙に。 「え…?」 「無理…しないで…」 「何?」 咲樹は気付いていない。 自分が泣いている事に。 それが堪らなく切なくて 北条は思い切り彼女を抱き締めた。 人目を憚る事無く。 「泣いて良い。 その方がきっとリキさんも…」 「ジョー…」 咲樹は泣いた。 漸く、泣く事が出来た。 ずっと抑えてた感情。 松田の為に流す事が出来た。 この、涙を…。 貰い泣きする源田と平尾は なみなみと酒を注いでいる。 亡き相棒の為に。 そして鳩村は優しい笑みを浮かべ、 咲樹を見つめていた。 松田は絆を残してくれた。 大門軍団に、宝を…。 |