[52] リキの残した存在(もの

「ブラジルの…伯父さん?」
「今風の足長伯父さん。
 リキさん、援助してたらしいよ」
「援助…?」
「ある女の子の夢を叶えさせる為にね」
「そうなんだ…」

CORNER LOUNGEで咲樹は意外な話を耳にした。
北条は課長から詳しく話を聞きだしたらしい。

二人はパトロールの途中で
CORNER LOUNGEに寄った。
此処は落ち着いて話が出来る。
初めて二人が近付いた切っ掛けも、此処だった。

あの頃はまだ松田が居て…。

「リキさん…」
まだ心は痛む。

だが、もう涙は無い。
何時までも泣いていたくは無い。
強い自分を、松田には見せたい。
刑事として一人前の自分を
彼に見てもらいたい。

「その子のガード…ね」
「あぁ…。それと…」
「…そうか。もう、ブラジルの伯父さんは…」
「…うん」
「辛いわね、こう云うの」
「辛いよ。…流石に」
「でも…」
「?」

「もっと辛いのは、同僚よりも上司…」
「…だな。俺、出世したくないな」
「…随分弱気なのね」
「頭が冴えないから出世はしないぜ。
 自信が有る」
「変なの」
咲樹は思わず吹き出していた。
その笑顔を見て北条も微笑む。

朝比奈は何も言わず、
二人を見守っていた。

* * * * * *

広田祥子。

松田が守りたがっていた少女。
松田に会いたがっていた少女。

自分の追っていた事件の犯人、
草野の残した娘。
彼女の未来を守る為に、
幸せになれる為に。

2年前、養子縁組で広田家に貰われてから
今日まで…彼はただ見守り続けていた。
だが…その少女に魔の手が迫っていた。

松田が追っていた最期の事件の本星、岩川は
祥子の養父、広田パイロットを脅して
ヘロインの運び屋をさせようとしていたのだ。
其処まで証拠を上げながら
軍団はまんまと岩川に祥子を拉致されてしまった。

祥子をマークしていた源田と共に。

* * * * * *

「祥子ちゃんが攫われたって?」
「ゲンも一緒みたいだ」
「ゲンちゃんも?」
「莫迦野郎だからな、アイツ。
 団長。
 ゲンの野郎、一緒に車に乗り込んだらしいんです」
「ゲンの奴…」

松田と一番仲が良かった源田の事だ。
彼女の事を放っては置けなかったはず。

「早く岩川を見つけるんだ!」
「はい!!」

団員は散り散りに駆け出す。
悠長にはしていられない。
もう、誰かを失うのは…。

その一心で彼等は懸命に駆け巡っていた。
そして、岩川の狙いを読み切っている谷は
広田の動きを抑えていた。

刻一刻と時間が過ぎていく。

「何とか足取りを掴まないと…」
どうしても咲樹は焦りを押さえられない。
松田の事を思うと、居ても立ってもいられない。

無念の思いでこの世を去った松田。
その彼が残した最期のメッセージ。
受け取ったのだ。
確かに、自分達は…。

「リキさん…。
 祥子ちゃんとゲンちゃんを…
 どうか、守って…」

祈るような思いで…。

* * * * * *

一方、源田も必死だった。
自分の命に代えても守る。

「リキ…力、貸してくれ…。
 祥子ちゃん…守る、からな…」
重症の身を引きずりながら
岩川に連れて行かれる祥子を追っていた。

「祥子ちゃん…」
「源田さん!!」

銃声が轟く中、源田の耳に漸く届いた。
それは黒パトのサイレン。
仲間達の声。

広田の証言で取引場所が判明したのだ。

「ゲン!」
「ゲンちゃん!!」
彼等は口々に源田の名を呼び、
犯人に拳銃を浴びせる。

幕はあっけなく下りた。

「ゲン!」
駆け寄った大門に源田は言った。
「団長…俺、生きてますね…」
大門は微笑を浮かべた。

が、それも束の間。
祥子を見つめ、サングラスを取る。
瞳は哀しみで曇っていた。

「ブラジルの伯父さんは…?」
祥子の問い掛けに、
大門は松田の正体と、彼の死を告げた。
泣き崩れる祥子に大門が囁く。

「強く生きてくれ。
 それが…伯父さんが君に残したメッセージだ」

松田の宝物は、涙を拭き
真っ直ぐに大門を見つめた。
意志の強さが判る瞳。
彼女はもう大丈夫だろう。
そして…松田も。
これで安心して眠れる筈だ。

「美味しい所はゲンさんに持って行かれちまったな」
不謹慎な北条の台詞に
咲樹は苦笑いを浮かべながら
足を踏みつけてやった。

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SITE UP・2005.10.22 ©森本 樹

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