[73] 悲壮な決意

「団長、一寸…良いですか?」
北条は刑事部屋に戻ると
真っ先に大門の元へ向かった。

「話がしたいんですけど。
 その…2人だけで」
「…解った」
大門は短くそう返すと
静かに席を立つ。

北条もそれに習い、
2人は小会議室に向かった。

* * * * * *

「…そうか」
一連の経緯を北条から説明され、
大門は深い溜息を吐いた。

「もう…限界かも知れない、か」
「…多分。
 咲樹さんは認めないでしょうが
 体は完全に拒絶反応を示してます。
 あれじゃ咲樹さんの心が参ってしまう…」

「ジョー…」
「はい、団長」

「お前は…言えるのか?
 咲樹に『捜査から外れろ』と」
「団長…?」

「咲樹の並々ならぬ決意は
 お前も良く解っている筈だ。
 それを…断念させられるのか?」
「……」

「…無理に、とは言わん。
 それは本来自分の役目だ。
 だがな、ジョー。
 自分は咲樹に諦めて欲しくない」
「…団長」
北条は静かに口を開いた。

「俺は……。
 …俺が、言います」
「ジョー……」

「咲樹さんへは…
 俺から、言います。
 これ以上は、無理です…」

「…お前はそれで良いのか?」
北条は小さな声で
「仕方が無いです」と呟いた。

それが彼の本心では無い事位
気付かない大門ではない。

悪役を買って出ても
彼は今の彼女を救いたいのだろう。
自分とは別の方法で
彼女を立ち直らせる為にも。

だが…。

「それが何を意味するのか…
 解っているのか?」
「…覚悟の、上です」

彼女を裏切る行為。
間違いなく、
今迄の様に捜査する事は叶わないだろう。

それらを犠牲にしても良い。
北条の覚悟は、それを意味していた。

「…解った」
レイバンの奥の寂しげな瞳。

大門は静かに、
言葉を選ぶ様に紡いでいく。

「咲樹の事は…
 ジョー、お前に任せる」
「…有難う御座います」

北条は笑みを浮かべていた。
今にも泣き出しそうな笑みを。

「…彼女を家に送ってきます」
「あぁ……」

彼の背中をジッと見送る。
いつもより小さく感じる、その背中。

「…ジョー。咲樹……」

大門は思っていた。
試練は、寧ろこれからだと。

* * * * * *

「……」
車の中で、
北条は一言も口を聞かなかった。

何かを考えているらしく、
表情がやけに重い。

咲樹もまた、
何かを口にする気力すら無かった。

脳裏に過ぎるのは事件現場の
生々しい映像。
震える体を抑える事も
今の彼女には無理の様だ。

静かに黒パトを止め、
北条は黙って反対側の扉を開けた。

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SITE UP・2006.09.01 ©森本 樹

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