[84] 卒業

課長室。

「…そうか」
「はい…」

静かに、それだけ交わされる言葉。
木暮が、二宮が、そして大門が
咲樹の決意を耳にしていた。

「…それで、良い」
「課長?」

「これから漸く始まるんだ。
 本当の、沢渡 咲樹の人生が」
木暮は静かに笑みを浮かべている。

彼女はやっと見つけたのだ。
『刑事』以外の生き方を。

この職業を続けるのも一つの選択。

だが…木暮は
今の選択を望んでいた。
言葉にはしないが
二宮も嬉しそうに頷いている。

「…団長?」
木暮はふと
何かを考えている様な大門に声を掛けた。

「どうした、団長?」
「…不思議な気分ですね」
大門はそう言うと
少し恥ずかしげに笑みを浮かべた。

「自分は咲樹を
 『部下』としてだけでなく
 『妹』としても見ていた様です。
 先を越されたような感じがして…」

「団長…」
感慨深い声が咲樹の口から発される。

温かく見守ってくれた上司。
そして…優しい兄。
咲樹も同じだった。

「咲樹」
「…はい、団長」
「お前が此処を去ったとしても
 『大門軍団』の一員である事は変わりない。
 それだけは…忘れないで欲しい」
「団長…」

あの晩。
北条が告げた言葉。
『大門軍団の一員』で在ると云う事。

「それが、全員の気持ちだ」
大門はそう言うと
力強く咲樹の肩を叩いた。

「お前の新しい門出を
 セブンで祝うとするか」
「今日の宿直は気の毒だな」
木暮はそう言うと苦笑を浮かべた。

「まぁ、『奴』なら納得するか」

意味深な木暮の言葉に
その場の全員が笑い出した。

* * * * * *

セブンは久々に賑やかだった。
明子も招かれ
明るい雰囲気に一層花が咲く。

「ジョーさんもお気の毒に」
平尾はそう言いながら
そっと視線を咲樹に移す。

「…寂しい?」
「平気」
「なら、安心かな?」

平尾の合図に気が付いたのか
鳩村と沖田が何かのグラスを片手に
咲樹の傍にやって来た。

「飲むか?」
鳩村が差し出したのは
一見すると『オレンジジュース』。

咲樹はふと笑みを浮かべ
鳩村を見つめた。

「スクリュードライバー、でしょ?」
「…バレたか」

「覚えてたのね」
「あぁ。
 俺の最大の失態だからな」
鳩村は懐かしそうな表情を浮かべ
手にしたスクリュードライバーを飲み干す。

「…おまえが酒駄目だって知ってたら
 あんな悪戯しなかっただろうに。
 そうすれば少しは『何か』が
 違ってたかも知れねぇな…」
「ハト…」
「まぁ、過ぎた事だ」

鳩村の笑顔に寂しさや後悔は無い。
既に吹っ切れているのだろう。

良い笑顔だった。

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SITE UP・2006.11.07 ©森本 樹

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