| [1] 赴任 |
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玄関口の前で、もう彼是何分このまま 立ち続けているのだろう。 時間前に到着したのは良いが、 幾ら何でも2時間前は早過ぎた。 嬉しくて、つい…では この先保たないだろう。 「しっかり…しないと、な」 ネクタイを締め直し、時計を見る。 まだ1時間半以上もあった。 憧れの西部署を前に、正直足が震えている。 そんな時。 奥から人影が見えた。 濃い目のスーツ姿、細身の男。 「…北条 晴人巡査、だね」 男はとても優しい笑みを浮かべている。 「約束よりもかなり時間前だが、 気合入ってるな」 「あ、初めまして! あの…」 「実は『初めまして』では無いんだよな」 「えっ…?」 「お前とは良く『遊んだ』仲だ、晴人」 「え? えっ?」 「覚えてないのも無理は無いか。 まだ赤ん坊の頃だったからな」 「…えっと、あの……」 「改めて、西部署へようこそ。 自分は捜査課主任、巡査部長の鳩村 英次だ」 鳩村は、実に嬉しそうに晴人の左肩を叩いた。 「まさかこんなに早く、 お前と一緒に仕事出来る日が来るとはな。 楽しみにしていた甲斐が有った」 「あ…あの……鳩村巡査部長…」 「あぁ、『団長』で良い。 今日からお前は『鳩村軍団』の一員だ」 「団、長…」 「その声。父親そっくりだな」 鳩村は思わず苦笑を洩らした。 「どうしてる?」 「親父、ですか?」 「あぁ」 「元々 泊まりが多いらしくて、 滅多に家には帰って来ませんよ」 「そうか…」 鳩村は意味深な笑みを浮かべている。 「どうする?」 「何がですか?」 「ある日突然、急に妹弟が増えてたら…」 「…まさかっ?!」 晴人は思わず大声で否定する。 「あの親父に限って!」 「そう思う?」 「思いますよ。 だって親父…母さんに全然 頭が上がらないんですよ。 浮気なんてしようものなら 必ずエラい目に遭わされますって」 「確かにな」 鳩村は笑いながら、 そっと晴人の背を押してやる。 「ちと早いが。 課長に挨拶を済ませるか」 「…はい!」 元気の良い晴人の返事に、 鳩村は満面の笑みを浮かべていた。 その少し前。 CORNER LOUNGEでは大門が静かに カウンターで珈琲を嗜んでいた。 「良いんですか? こんな時間に職場を空けて」 ママである藍子が苦笑を浮かべている。 「今日は新人さんがいらっしゃる日でしょう?」 「そうだよ。 なかなか期待の新人だ」 「あら。大門さんがそれ程言われるなら…」 藍子は微笑みながら珈琲を注ぎ足すと 大門は静かに会釈を返す。 「今日は…報告も兼ねてなんだ」 「報告?」 「…課長、いや…木暮さんにね」 「まぁ、そうだったんですか」 合点が行ったらしく 藍子は店の奥からそっと何かを持って来た。 嘗て上司だった木暮 謙三。 彼が愛飲していた『レミーマルタン』のボトル。 「ジョーの息子が西部署に来ますよ」 ボトルにそっと微笑む大門の瞳は 何とも言えず温かみと優しさに満ち溢れている。 彼には見えているのだろう。 嬉しそうな木暮の笑顔が。 藍子も又、何も口出す事無く その様子を優しく見守っていた。 |