少年の涙・1

その少年が刑事部屋を訪れた時、
部屋には沖田と北条しか在席していなかった。

きょろきょろと辺りを見渡す少年に
北条が声をかける。

「迷子か?
 なら此処じゃなくって…」

「『平尾 一兵』って居る?」
「…自分より年上の人を
 呼び捨ては無いだろ?」

「答えろよ。
 平尾 一兵、居るんだろ?」

「今は外出中だが、
 平尾刑事に何の用だい?」

代わりに答えたのは沖田だった。
目線と少年に合わせ、
腰を屈める。

「平尾 一兵に…
 謝ってもらうんだ」
「謝る?」

「俺の母ちゃんを泣かせたから」
「えっ?!」

驚いたのは北条である。

「お母さん、泣かせたって……」
「そうだよ!
 俺の母ちゃん…
 平尾 一兵の事を考えたら
 涙が止まらないって……」

「…オキさん」
「……」

「もしかしてこの子…」
「…何も言うな、ジョー」

沖田も何かを察したらしい。
だが努めて笑顔を作り、
少年の髪を撫でてやる。

「平尾刑事には俺から話しておこう。
 家は?
 この刑事さんが送ってくれるから」
「…もしかして、俺が?」
「頼んだぜ、ジョー」
「…了解」

北条はそう言うと
少年と共に刑事部屋を後にする。

その後姿を見送りながら
沖田は大きく深い溜息を吐いた。

* * *

「どう云う事なんですか、一兵さんッ?!」

セブンに着くなりいきなり北条に怒鳴られた。

平尾は何の事なのか
まるで解らないという表情を浮かべる。
鳩村は沖田から事情の説明を受けたらしく
ニヤニヤと嫌味な笑みを浮かべている。

「やるねぇ〜、プレイボーイ?」
「で、この先どうするつもりだ?」
「だから…一体何の事?」

「隠し子居るんでしょ、一兵さん?
 認知したらどうです?
 男の責任取らないと」
「はぁ〜〜〜っ?!」

北条の口から出たとんでもない事実に
今度は平尾が叫び声をあげた。

「ち…一寸待って!
 誰の隠し子?」
「一兵さんですよっ!!」
「身に覚えない!
 断じて無い!!
 絶対に無いッ!!」

平尾の余りの剣幕に
沖田はオヤッと首を傾げた。

「…待てよ?
 そう言えばあの子…」
「どうした、オキ?」

「いやな…。
 そう言えば一言も
 『一兵が父親だ』とは
 言ってなかった様な……」

「…そうでしたっけ?」
北条も首を傾げる。

「あぁ。
 『謝ってもらう』とは言ってたがな」
「ほら! 僕は潔白ですってっ!!」
「『謝ってもらう』って言われてるのに
 何が潔白だよ…」
呆れ顔で鳩村が突っ込みを入れる。

「とにかく団長には…」
「まだ秘密にした方が良いな」
「…あれ、そうなの?
 お前の事だから報告済みかと…」
「事は慎重に運ばないとな。
 団長も独身の身だし、
 子供の世話となると……」
「確かにな……」
深刻な沖田と鳩村の表情。

ひたすら北条を責め立てる平尾の姿を
何とも複雑に見つめている。

「何を『謝って欲しい』のか、
 あの子は告げてくれなかった。
 俺達『大人』は信用されてないのかもな」
「オキ…」
「何とも辛いな、ハト…」
「お前は優し過ぎるからな」

鳩村はそう言うと
七重ママに目配せする。

「美味いバーボンをオキに…」
「あら、優しいのね。
 女以外でも、オキは特別?」
「そう云う気分なのさ」

「じゃあこれはアタシからのサービス。
 優しいオキの気持ちに、乾杯」
「有り難う、ママ…」

沖田は漸く笑みを浮かべた。

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SITE UP・2006.9.30 ©森本 樹

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