少年の涙・2

少年は次の日もやってきた。

「平尾一兵、 居る?」

応じたのは大門だった。

「どうした?
 平尾刑事に用か?」
「…うん」

「平尾刑事は今パトロール中だ。
 話があるなら呼び戻そう」
「…うん」

「君の名前は?」
「秋田 薫」
「薫君か。解った」

大門は素早く無線と取った。

「大門だ。
 一兵、応答出来るか?」
『はい、平尾です』

無線の声に
薫は無反応だった。

大門はその様子に違和感を覚える。

「お前にお客さんが来ている。
 署に戻ってこれるか?」
『大丈夫です。
 今から戻ります』

無線が切れた後も薫には反応が無い。

「平尾刑事が戻るまで、
 ジュースでも飲んで待っているか?」

大門の笑顔に
薫も笑顔で返した。

* * *

「この子が…?」

やはり平尾には覚えが無い。
何故この子が自分を指名したのか、
どんなに頭を捻っても出てこない。

「団長、この子は…」

沖田が口を開くと
大門は何かを察したのか
平尾と少年を二人だけにするよう
目で合図を送る。

二人が刑事部屋を離れ、
静かな時間が流れる。

「あの…さ」
平尾は思い切って口を開いた。

「君…薫君、だったっけ?
 どうして僕の名前知ってるの?」
「…母ちゃんが」
「?」

「母ちゃんが、そう呼んでたから」
「そうか…。
 君のお父さんは?」
「知らない」
「……」

母子家庭で育ったのだろうか。
平尾は少し考えを巡らせていた。

「…母ちゃん、泣いてた」
「え?」

「どうしてか解らないけど、
 泣いてた。
 それで…俺……」
「…どういう意味だい?」

「母ちゃん、こう言ったんだ。
 『平尾 一兵に会いにいけ』って」

「なぁ…。
 君の母ちゃんの名前、
 聞いても良いか?」
「若松…緑」
「……」

やはり覚えが無い。
女性の名前は自慢じゃないが
忘れたりしないのが彼の持ち味だ。

その彼が『覚えていない』名前。

「他に、何か言ってなかった?」
「……」

薫は何を思ったのか
急に泣き出してしまった。

「お…おいおい……」

「母ちゃん、居なくなったんだ!
 俺を置いて、居なくなったんだっ!!」
「居なくなったっ?!
 それを先に言ってくれよ…」

「母ちゃん、俺に言ったんだ。
 『何か遭ったら平尾 一兵に会いに行け』って…」
「!!」

平尾は嫌な予感を察知した。
若松 緑は自分に迫る危機を知っていた。

そしてこの子を守る為に
自分に会わせたのではないか、と。
もしこの予感が当たっていれば…
若松 緑の身に危険が迫っている事は確かだ。

「団長っ!!」

平尾は
恐らく部屋の外に居るであろう
大門達を呼んだ。

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SITE UP・2006.9.30 ©森本 樹

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