少年の涙・4

「何ですか、あれっ!!」
赤城邸を出るや否や
北条は憤慨を平尾にぶつけてきた。

「お、落ち着けよ…」
「だってあんまりじゃないですか!
 子供が出来たから、産みたいって言ったから…
 それだけで『勘当』しますかっ?!」

「…世間体ってのに拘る人も居るって訳だよ」
「だからって…」

「確かに、あんまりだよな。
 彼女は訳有って妊娠し、
 薫君を産みたいと願った。
 彼の誕生と引き換えに
 自分は実の親に断絶された、か…」

平尾は少し俯くと
そっと溜息を吐いた。

「乳飲み子を抱えて、
 当時16歳だった彼女は
 必死に生きていたんだろうな…」
「一兵さん…?」

「一言…」
「えっ?」
「一言、…教えて欲しかったよ。
 こんな僕で良ければ
 何か…力になれたのに……」
「……」

平尾は傷付いたのだろう。

何も出来なかったかも知れない。
でも何か出来たかも知れない。

「知らなかった」

その事実が、
酷く彼を苦しめている。
北条は見るに耐えかね、
声を掛けた。

「団長の家、行きませんか?」
「団長の?」
「えぇ。
 あのガキ…いや、
 薫君の様子を見に」
「…そうだね」

平尾はそっと微笑んだが
その表情は暗く、
哀しみに満ちていた。

* * *

「いらっしゃい」

明子は笑顔で
二人を迎え入れた。

「薫君、夕飯食べた後
 眠っちゃったの」
「献立、何?」
「ハンバ−グ。
 定番だけどね」

明子はそう言うと
部屋の中に視線を移した。

「素直で可愛い子ね。
 料理のお手伝いも
 自分から買って出てくれたわ」
「へぇ…」
「お母さんのお手伝いをしてるのね。
 物凄く手際が良いの」
「…そうか」
「あ、上がっていく?」

明子の声を遮る様に
平尾は薫の元へと歩を進めていた。

布団に包まる少年。
その頬に残る涙の跡。

「必ず、お母さんに会わせるからな」

そっと髪を撫で、
まるで父親のように
平尾は優しく微笑んでいる。

「お母さんと…
 早く会わせてやるからな」
「一兵さん…」
「そっとしておいてあげよ」

明子に言われ、
北条は黙って頷いた。

「不思議ね」
「何が?」

「まるで本当の親子みたい…」
「…あぁ」
「一兵さん、
 本当にあの子のお父さんになったら
 素敵なのにな〜」
「…それは」

北条は何かを思い浮かべたのか
声を忍ばせて苦笑した。

「何、ジョーさん?」
「いや…それだと
 『趣味』が減るな…と」
「酷い後輩さん」

明子もつられて苦笑を浮かべた。

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SITE UP・2006.9.30 ©森本 樹

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