Vorwort・10

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

何度かメールを無視していたら
今度は電話が掛かってきた。
瑠摩からである。

流石に出ない訳にはいかず、
江淋は渋々電話を取った。

「…何だ?」
「相変わらず機嫌が悪いな」

「…忙しいんだ。
 用件が無いなら切るぞ」
「お前の様子を知りたい。
 それは…用件にならないか?」

「……」
「江淋」

「…瑠摩」
「何だ?」
「兄貴面するのは
 いい加減、止めてくれ」
「…江淋」

「俺は…鹿嶋の人間じゃない。
 俺は【嶺崎】 江淋だ。
 それ以外の何者にもならない」
「…お前はそれで良いかも知れないが
 残された者はどうなる?
 考えた事、有るのか?
 それとも…考えない様に
 思考を閉じているのか?」
「……」

「話を、変えよう」

瑠摩は声色を変えた。

「彼女の事だ」

* * * * * *

誠希は久しぶりに自室に居た。
隣には緋影が居る。

いつも纏っている
皮のジャンパーを脱ぎ、
寛いでいる様だった。

「…そうか」

誠希は酒を緋影に勧めた。
彼の好きなカクテルだ。

「消した…んだ」
「あぁ」

「…警察に突き出す、
 訳にもいかないか」
「奴を突き出した所で
 暗殺者が減る訳じゃない。
 消していく方が確実だ」
「…確かにそうだけど」

「俺は…瑠摩様を脅かす存在を
 許す訳にはいかない」

緋影はカクテルをクイっと呑み、
静かに椅子に腰掛けた。

「美味いな、お前の作る
 【オールド・パル】は…」
「緋影……」

「俺はお前の手を血で汚したくは無い。
 穢れた血で汚したくない。
 この仕事は俺だけで充分だ」
「それは違う、緋影!」

「いや…。
 俺は【冥王星】の守護を受けし者。
 【死】を司る星の下に生まれた
 俺にこそ相応しい仕事だ」
「緋影……」

緋影は決して譲らないだろう。
自分の役目を。
そんな彼の優しさが
誠希には悔しかった。
彼の身代わりにはなれない。
それを実感しているからか。

「お前は【忠天子】。
 瑠摩様をお守りするのが使命。
 お前の能力がその為に有る」
「緋影……」

「カクテルの所為かな。
 …少し俺とした事が
 饒舌になり過ぎた」
「…偶には、良いんじゃないのか?」
「俺のキャラじゃない」

沈黙が部屋を支配する。
カランと氷の溶ける音が響いた。

「今日は…」
「?」

「久々に、その……」
「…そうだな」

緋影は軽く頷いた。

「施設の時以来だな。
 お前と一緒に夜を過ごすのは」
「…あの頃はもっと
 【子供】だっただろう?
 お互いに……」

誠希の恥ずかしそうな表情に
緋影は苦笑を浮かべた。
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