Vorwort・9

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

「…ん?」

隆臥は早朝、
これから大学に向かう葵に声を掛けようとして
その違和感を察知した。

「ストーカーか?」

隆臥はそう呟くと
そっと気配を追った。

生まれつき、彼は気配に敏感だ。
そう、悪意に満ちた気配には。
その為か、彼はよく捕り物劇に遭遇し
何度か警察を助けている。

だがその気配は少し変わっていた。
隆臥が察知したのを知るや
蜘蛛の子を散らすように『消えた』のだ。

「?」

こんな気配は初めてだった。
瞬時に消えた。
正にその表現がピッタリだった。

「…一体何なんだ?」

隆臥は眼鏡の縁を上げ
気配の消え去った後を見つめていた。

「取り敢えず…
 葵には教えた方が良いな。
 ストーカーにしては
 逃げ足の速い奴だ…」

隆臥は納得いかないままも
そのまま職場へと向かった。

* * * * * *

誰も知らない空間。
一人静かに紅い月を見上げる。

「……」

見事な虎目石色の瞳が
紅い月を睨み付けている。

「今日も騒々しい…」

青年はそう言うと
視線を背後に向けた。

「此処を通りたければ
 俺を倒してからだ」

ジリジリと影達が近付いて来る。

「だがな…」

青年は稲妻を自身の左手に呼び落とす。

稲妻の光が集結され、
見事なまでの手斧へと変化した。

「未だ嘗て、
 此処を抜けた者は居ない」

青年の言葉は静かだが
その分凄みが有った。
影達は怯む事無く
ジリジリと一定の距離を詰める。

感情は見られない。
まるで人形の様な動き。

「この雷摩を相手にするのに
 【影】で充分と云う事か?
 …甘いな」

雷摩(らいま)はそう言うと鼻で笑った。

「掛かって来い。
 操り人形が何体来ようが
 この【サンダーアクス】の相手にもならん」

電気をパチパチと発する刃を振り上げ、
雷摩は影達に突撃をかけた。

慣れた調子で振り上げ、振り下ろす。
粉砕される影。
闇に煌めく一条の光。
雷摩の攻撃は光の螺旋を描き、
次々と影達を消し去っていく。

「準備体操にもならん。
 コレでは運動不足だ」

全員をあっという間に倒し、
雷摩はそう言って岩場に腰掛けた。

* * * * * *

「…返信が来たか」

祖父の使っていたパソコンから
思い切って連絡を取ってみた。
『もしも』彼等が祖父の言う存在なら
パスワードを解除して返してくる筈。

聖の読みは当たっていた。

「やはり…実在していたんだ。
 【光源八剣士】…。
 俺の見る夢も、只の夢では無く
 前世の記憶と云う訳か……」

聖は深い溜息を吐いた。
仲間が見つかった喜びよりも
何故か複雑な思いだけが
心を支配していった。
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