Vorwort・4

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

「応答無しか…」

解っていた事とは云え、
落胆は隠せない。
瑠摩は静かに椅子に身を委ね
見えない目で空を見つめていた。

「今日は…雨、か」
「…はい」
「誠希には寒い思いをさせるな…」
「…彼奴なら、大丈夫です」
「そうか…」

言葉少なげだが
緋影の優しさは良く伝わってくる。
飾り気が無いからこそ
思いがストレートなのだ。

「お前はどう思った、緋影?
 【彼女】を見て…」
「資質は…感じられませんでした」
「そうか…」

「ただ、【何か】懐かしさを感じます」
「懐かしさ?」
「はい。
 …上手く言葉に出来ませんが」
「…懐かしさ、か」

瑠摩は何かを考えている様だった。
濃い目のサングラスの奥の瞳が
微かにだが動く。

「それこそが【鍵】なのかもな」
「…え?」

「言葉に表せないもの。
 それこそが真実だとしたら…
 間違いなく彼女は……」
「我々の捜している…存在ですか?」
「そうだ」
瑠摩は断言した。

「江淋も接触したんだろう?」
「はい」

「なのに彼奴は応答して来なかった。
 此方の質問を無視だ。
 …どう思う?」
「江淋らしいですね」

緋影は珍しく苦笑を浮かべる。

「だろう?
 彼奴も解っているんだよ。
 だから【敢えて】無視している」
「でも逆にそれが…」
「あぁ。
 何よりも【確信】を表している。
 不器用な男だ、我が【義弟】ながら」

瑠摩はそう言うと
緋影に珈琲を勧めた。

「誠希の珈琲ですね」
「あぁ。香りと味わいが違う。
 お前も好きだろう?」
「はい」

「お前は『誠希が好き』だからな」
「…瑠摩様」

からかわれて緋影が赤面する。
クールな彼らしからぬ表情だった。

* * * * * *

「江淋」

部屋から出てきた途端
声を掛けられた。

「誠希か」
「元気か?」
「…まぁな。
 張り込みか?」
「そんなオーバーな…」

「俺の行動を
 逐一瑠摩に連絡してるんだろう?」
「…まぁね。
 瑠摩様は心配されてるんだよ」
「…心配される筋合いはねぇよ」
「江淋…」

「俺は俺の思う様に生きる。
 思う様に戦う。
 …そう、告げた筈だ」
「確かにそうだけど…」

相変わらず頑固だ。
誠希は心の中でそう思った。

「で…お目当ての【彼女】には会えた?」
「?」
「【仁天子】様」
「…夢物語か? 居る訳無いだろ」

「お前がそっと見守ってる彼女は
 そうじゃないのか?」
「…誠希」
「怒るなよ」

誠希は首を竦めて冗談を振舞っているが
目は真剣である。

「…彼女を守れ。
 瑠摩様の伝言だ」
「……」
「奴等が動き出してる」
「知ってる」
「なら…」

「現にもう狙われている」
「…もう?」
「情報収集が得意なんだろう?」

今度は江淋が不敵な笑みを浮かべた。
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