Vorwort・5

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

「詰めが甘いんだよ、お前等」

江淋の一言に
誠希は意外そうな表情を浮かべた。

「そうか?」
「…あぁ。
 奴等を舐めてるだろ」
「そうでもないさ」
「殺り合えば…解るぜ」
「江淋、お前…又……」

「…悪いか?
 俺は【敵討ち】しているだけさ」
「…無闇に【能力(ちから)】を使うな。
 そう言われているだろう?
 この事が他の人間にバレたら
 住めなくなるのはお前なんだぞ?」

「…んな事どうでも良い」
「江淋…」
「余計な口挟むな。
 俺は俺の思う様に行動する。
 邪魔するならお前でも容赦しない」
「……」

江淋の言葉は脅しではない。
そんな器用な男じゃない事は
誠希もよく知っている。

有言実行する男なのだ。
恐ろしい位、忠実に。

「…程々にな」

誠希はそう言って
江淋の家を後にした。

* * * * * *

「ふん…」

面白くないとばかりに
江淋は煙草を咥えた。

煙草の味を覚えたのは
何時だったろうか?
今日の煙草は格別苦い。

「…何時だ、今?」

今日は建築現場での仕事だったなと
江淋は支度を始める。

鹿嶋の養子として迎え入れられたのは
あの事件の直後だった。

母親の遠縁だった事は知っている。
だが、他人だと思っていた。
いきなり「今日から家族だ」と言われても
納得出来なかった。

中学を卒業して直ぐ
江淋は鹿嶋家を出た。
恩恵に縋る気も無かったし
何よりも煩わしかった。

【家族】
【兄弟】
【仲間】

そんな物、自分には不要だった。

ただ、敵を取れれば良い。
その為だけの【生命】。

江淋はそれからずっと
年齢を誤魔化しては仕事に就き、
生活を続けていた。

体格も人より優れていた分
誤魔化すのは容易かった。
最低限の生活だけ出来れば
金も必要無かった。

「どうせ…敵を取ったら終わるんだ」

その目に輝きは無かった。

* * * * * *

授業の内容が頭に入って来ない。
葵はずっと外を見つめていた。

淋しそうな目をしたあの青年は
一体誰なんだろうか?
そっけない態度の中に見えた
優しさと暖かさ。

「…私」

こんなにも気になるのは
何故なのか。

今まで【恋愛】とは無縁だった彼女が
初めて知る【恋】の予感。
心の奥が痛い。
涙が溢れてくる。

「…どうして?」

どうしてこんなに哀しいのだろう。
どうしてこんなに苦しいのだろう。

「…会いたい」

その一言がリフレインする。

「あの人に…会いたい……」

葵は零れる涙をそっと拭った。

泣いていても始まらない。
きっと会えると信じるしかない。
そう…いつか、きっと……。
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