Vorwort・6

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

帰り道、葵は静かに空を見上げた。

柔らかな夕焼け。
それが何かをふと思い起こさせる。

「……」

頭から離れない。
あの瞳が。
ずっと、ずっと離れずにいる。

「…せめて、名前だけでも
 聞ければ良かったな……」

あの一瞬が永遠に繋がる様な
そんな感覚だった。

彼女は気付いていない。
そんな後姿をジッと見つめる影を。

* * * * * *

「瑠摩様」

誠希はメールチェックをしながら
ふと声を上げた。

「何だ?」
「気になるメールが紛れてます」
「気になるメール?」
「暗号付きですね。
 このままじゃ読めません」
「……」

「瑠摩様?」
「差出人名は?」
「…アマデラ、ですね。
 ご存知ですか?」
「…あぁ。
 キーワードは
 【Eight Soldiers】だ」
「八剣士……」
誠希は言われた通り
暗号を打ち込んでみる。

「…ロック解除出来ました。
 と、言う事は……」
「天寺教授は【光源八剣士】の
 研究をされていた。
 情報のやり取りはよくしているからな。
 それにしても暗号付きは初めてだが…」

瑠摩は疑問を抱きながら
誠希にメールの詳細を尋ねた。

* * * * * *

一仕事終えるといつの間にか夜だった。

慣れた道を一人帰っていると
背後に複数の気配を感じた。

「…またか」

江淋は口の端を上げ、
不気味な笑みを浮かべる。

微かに見える程度だが
確かに人の姿だった。

「お前等も懲りねぇな。
 そんなに消されたいか」

人影は各々武器を持ち
江淋に飛び掛ってくる。
だが彼は慣れた調子で
そんな攻撃を軽くかわしていく。

まるで踊る様なステップ。
嘲笑うかの様な動き。

「本気出して来いよ。その程度か?」

江淋の目はまだ笑っている。
人影の攻撃は止まないが
江淋に当たる事は無い。

「…いい加減雑魚は飽きたんだ。
 大物連れて来いって
 いつも言ってるだろ?」

その表情が少し変わる。

「ま、お前等は此処でサヨナラだから
 伝言しても無理か」

この言葉の直後、
江淋の胸の痣が激しく輝いた。
そして両腕に集まっていく
激流の渦巻き。

「遊びの相手している程
 俺は暇人じゃねぇんだ。
 勝負付けたいのなら本気で来い!」

両腕から放たれた水は
まるで剃刀の様に
人影を裂いていく。
それは見事な切れ味だった。

一人も逃す事無く
江淋は刺客を倒していた。
その表情に変化は無い。

「…莫迦にしやがって」

ふと口を吐いたのは
悔しさだった。

冷たくなった拳を暖める事無く
江淋は家路へと向かった。
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