Vorwort・7

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

『瑠摩…』

又あの夢だ。
瑠摩は自覚している。

2歳の時、
原因不明の病に苦しめられ
消えかけた生命を繋いだ…声。

「光赦菩来様…」

『お元気そうで何よりです、瑠摩』

あの頃と変わらない優しい笑み。
そう、神代の頃から変わらないその姿。

光赦菩来は【光一族】の長である。
【光源八剣士】は彼女の直属の戦士達だった。

「光赦菩来様。
 貴女がこうして自分に語り掛けてくるのは
 何かが動き出している、と…」

『……』
「そうなんですね…」
『貴方には苦労をかけます、瑠摩…』
「言わないで下さい。
 貴女は自分の生命の恩人。
 そして、仕えるべきお方…」

『瑠摩…。
 ワイバードの時と
 貴方は少しも変わらない。
 誠実で、優しくて…責任感が強くて…。
 そんな貴方にいつも頼ってしまう
 この弱き私を許して下さい……』
「光赦菩来様…」

彼女こそ、いつもそうだった。
物腰穏やかで、優しい。
長だからと言って威厳に縋る訳でも無く
静かに【光一族】の繁栄を願い続けていた。

「自分は…感謝しています。
 貴女に会えた事。
 貴女に…使命を頂いた事」
『瑠摩…』
「ワイバードの時代と変わらぬ忠誠を
 貴女に捧げております。
 光赦菩来様…」
『瑠摩…。
 お願いです。
 八剣士を…集めて下さい……』

薄れゆく光赦菩来の姿。

「必ず…」

瑠摩は彼女に誓った。

必ず【光源八剣士】を集めてみせる。
この時代に。
それが八剣士のリーダーである
自分の使命であると。

* * * * * *

その日、瑠摩は外出の予定が有った。
こんな時は必ずと言っていい程
誠希が護衛に付いてくる。

「そんな大層な用事じゃないから…」
「いえ、瑠摩様に何か遭っては
 鹿嶋が揺らぎますから…」
「…買い被り過ぎだよ、誠希」

瑠摩は苦笑を浮かべるが
誠希の言葉に嘘は無い。

事実、幾つもの倒産しかけた中小企業を
立ち直らせた手腕は
ビジネス業界でも屈指の技だと噂されている。
取材依頼も数多くやってきたが
その度に瑠摩は丁寧に断っている。

【深窓の令息】

マスコミが瑠摩に付けた通り名。
瑠摩はそれに関しても何も言わない。
そう、彼には目的が有るからだ。

「もう直ぐ着きます」

誠希は車を運転しながら
瑠摩に声を掛けた。

「久々だな、この手の会合に参加するのは」
「向こうが御指名ですからね。
 然もマスコミを通じて…」
「アレには驚いたな。
 流石に代理を立てる事も出来ない」

「お父上が心配されてましたね」
「父は昔から心配性だからね。
 …母を喪ってから
 その傾向が強くなった気がする」
「そうですか…」

瑠摩の母は彼が10歳の時
病気でこの世を去った。
父は再婚する事も無く
瑠摩を守り、鹿嶋を守って来た。

瑠摩が仕事に情熱を傾けるのは
父親に対する思いでも有るのだと
誠希は知っている。
そう、そして緋影も。

「着きました」

誠希はそう言うと
車を止め、静かに後部座席の扉を開けた。
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