Vorwort・8

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

例えるなら一条の閃光。
ライフルから放たれた弾丸は
間違いなく瑠摩の左胸を狙った。

しかし、暗殺者がスコープ越しに見たのは
絶命した瑠摩の姿では無く
此方をはっきりと見つめる誠希の表情だった。

【覚悟シロ】

彼の口は、そうはっきり動いた。

その意味を暗殺者は解読出来ないまま
再度ライフルを構え直す。
すると。

不意に肩を掴まれ、
壁に吹っ飛ばされた。

「?!」

気配は全く無かった。
だが其処に居たのは緋影。
無表情なまま蹴りを顔面に食らわせる。
相手がフラフラで意識が無くなる直前まで
緋影は蹴りを繰り返した。

そして。

「…懺悔でもするんだな」

彼はそう言うと
暗殺者の肩を掴んだ。

その部分から彼の体が急激に
【氷結】していく。

「死の痛みも、恐怖も何も無い。
 一番【楽な】逝き方だ」

嘗ての暗殺者だった物は
完全に氷結すると
粉々に崩れ落ちていった。

* * * * * *

「お怪我は無かったですか、瑠摩様?」
「あぁ…。
 【コレ】が狙いだったとはね」

瑠摩は自身の暗殺計画を察知し
帰りの車内でそっと呟いた。

「…怪我、してないか?」
「俺ですか?
 平気ですよ、弾丸を止める位」

誠希はそう言って笑っている。
現に彼は傷一つ負っていない。

「【忠天子】は八剣士一の防御率を誇りますから」
「……」
「瑠摩様?」
「…済まない」
「えっ?」
「お前も、緋影も…
 その【能力】を使いたくないだろうに…」
「…そんな事は無いですよ」

口ではそう言ったが
きっと瑠摩は見抜いているだろう。

実際は。
この力を用いるのが怖い。
前世の自分に飲み込まれそうで。
自分が【自分】で無くなりそうで。
それが怖い。

だが。

「俺達は瑠摩様の為に尽くすと誓ったんです」

あの日から。
施設を出て、
鹿嶋に迎え入れられたあの瞬間から。

「貴方の為に
 この【能力】を使わせて下さい」
「誠希……」

誠希は笑顔を浮かべていた。
見えずとも判る。
穏やかな彼の心の波。

緋影もまた、
何処かで彼と同じ様に思っているのだろう。

【瑠摩の為に】

「……」

瑠摩はそっとサングラスを外した。

外で、サングラスを取る事の無い
瑠摩にしては珍しい事だった。

色素の無い黒目。
其処には何も写らない筈だが。
バックミラー越しにそんな瑠摩を見つめ、
誠希はふと微笑を浮かべた。

「帰ったら…
 珈琲でも淹れましょうか。
 思わぬ時間が空きましたし」
「そうだな。
 いや、お前も疲れているだろうから
 ゆっくり食事にしないか?」
「良いんですか?」
「シェフもお前にご馳走したいらしい。
 あぁ、緋影が焼餅を妬くかな?」
「まさか!」

誠希は思わず笑い声を上げた。
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