Kapitel・1-11

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

空港のターミナル。
1人の男が周囲を見渡している。

初めての【日本】。

「祖父から聞かされていた話と
 随分隔たりがあるな」

男は小さなバックを手に
人込みの中へと消えていった。

* * * * * *

「どうした?」

江淋の呼び掛けに対し
葵は驚いた様な表情を浮かべた。

「…誰かが」
「ん?」
「…気の所為みたい」
「…そうか」

江淋も気配を探ってはいたが
何も感じなかった。

『もし、何者かが居たとしたら』

江淋はふと考える。

【仁天子】の能力は
他の剣士達と、そもそもの資質・性質が違う。
彼女がその【能力】に目覚め始めているのだろうか。

『まだ、早い』

江淋はそう感じた。

『全てを知るにも
 能力に目覚めるのも
 まだ…早過ぎる』

光源八剣士の【呪われた】記憶が
彼の脳裏にまざまざと蘇る。

「…り、江淋?」

心配気に自分の名を呼ぶ葵の声が
彼を現実に戻す。

「…大丈夫だ」

江淋は慌てて笑みを作った。
彼女を不安にはさせたくない。

『もっと気を引き締めないと。
 俺がしっかりしないと、な…』

江淋の笑顔に
葵もまた、笑顔で返していた。

* * * * * *

紅い月が輝く世界。

一人の青年が
黙ったまま月夜を見上げている。

「沙羅蔓陀(サラマンダ)様」

扉の向こうから何者かが呼ぶものの
青年は答えない。

「失礼致します」

声の主は静かに扉を開き
青年の傍にやってくると
恭しく頭を垂れた。

「首尾は上々で御座います」
「…随分と派手にやられているが?」
「ほんの小手調べでありますが故に…」
「奴等を甘く見るな」

青年、いや…沙羅蔓陀は
険しい表情を浮かべ、
部下を睨み付ける。

「不甲斐ない作戦は捨てろ」

静かだが、威圧感の有る視線だった。

「【力天子】の防衛線を
 抜ける事は事実上不可能だ。
 ならば、どうしても戦力が落ちる。
 解っているな?」
「…御意」
「数で押せば良いという物でもない。
 敵を知れ」

沙羅蔓陀はさもすると
【光源八剣士】達を高く評価している様にも
感じる発言を繰り返している。

「此方から戦力を送る事が限られている以上
 上手く知恵を張り巡らせろ。
 それでなくても
 向こうには切れ者が存在する」
「切れ者、ですか?」
「【戒天子】が転生しているのだ。
 奴だけでも十分脅威の存在である事は
 お前も良く解っている筈だが?」

沙羅蔓陀は不敵な笑みを浮かべている。

「一筋縄ではいかない男だ。
 【戒天子】はな…」
「沙羅蔓陀様…」
「だからこそ
 【倒し甲斐】が有る」

沙羅蔓陀はそう呟くと
再び視線を月に向けた。
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