Kapitel・1-12

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

空港を後にし、
青年はターミナルへ歩を進めていた。

「Excuse me」

不意に掛かる声。

「Are you Mr.Amadera?」
「…Yes」
「Nice to meet you」

流暢な英語。
ネイティブではない。
濃いサングラスの奥の瞳に
何かを感じる。
聖はふっと鼻で笑うと
言葉を発した。

「日本語は話せるんだ。
 回りくどい事は不要だと思うが」
「失礼」

男は素直に非を詫びる。

「こうして会うのは初めてですね。
 鹿嶋 瑠摩です」
「…どうも」

祖父のメール相手。
日本に来ないかと云う
意味深なメールを送ってきた張本人。

【鹿嶋】の名前はイギリスでも有名だ。
その御曹司が。

「立ち話もなんですから
 移動しましょうか」

瑠摩がそう言って微笑む。
慣れた手つきで荷物をトランクに詰め込むのは
緋影であった。

聖は特に何を言う事もなく
この一連の作業を
黙って見つめていた。

* * * * * *

いつもの様に作業場で時間を過ごす。
日常生活をこんな穏やかに過ごすのは
初めてではないだろうか。

江淋はぼんやりと空を見上げていた。

思えば。
あの事件以降
ただ我武者羅に生きてきた。
こんな風に空を見上げた事など
一度も無かったかも知れない。

まるで昔に返った様だった。

神代の時代。
無限に続く無意味な時間を
ただただ消費したかった頃。

あの孤独を救ってくれたのは。

「…いつの時代でも
 彼女は俺を救ってくれている」

江淋はそう呟くと
静かに瞳を閉じる。

彼女に何かを求めている訳ではない。
だが、彼女はいつも
【自分が一番欲しいもの】を与えてくれる。
そんな存在だった。

「だからこそ、だ」

決意は固い。
その思いはあの頃と少しも変わらない。

そして…その対象が
【仁天子】である事は
彼にとって関係の無い事でもあった。

「偶々セルバールが【仁天子】であっただけだ。
 そして…葵は全く関係が無い。
 それで良いんだ、俺にとっては」

まるで自分の中の誰かに言い聞かせる様な
深い、声だった。

* * * * * *

「どうしたの?」

自宅で母親に声を掛けられ
隆臥は思わず固まってしまった。

「何? どうしたの」
「吃驚したんだよ」
「何を考えてたの?」
「ん…」
「当ててみましょうか?」

まるで乙女の様な母親の振る舞いに
隆臥は苦笑を浮かべるしかない。

「葵ちゃんの事?」
「!」
「当たった。
 やっぱり母親の勘は当たるわ」
「自分で言うなよ」

無邪気な母親を目の前にすると
自分の悩みなどちっぽけに思えてしまう
隆臥なのであった。
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