Kapitel・1-13

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

敵の動きは嫌でも感じ取ってしまう。

幼年時代より染み付いた【感覚】が
彼をここまで戦士にさせた。
江淋は静かに煙草を燻らせ
月夜を眺めていた。

「紅い…月、か」

葵と出逢う事で少しは癒された心。
しかし、彼の戦いが終わった訳ではない。
寧ろ今からが本当の戦いとなる。

「…どうなるのかも見えないな」

正直な気持ちが口をついて出た。

「…たとえ何があろうとも
 俺だけは彼女を守ってみせる」

過去を思い出したのか
江淋は静かに瞳を閉じた。

* * * * * *

その頃隆臥も、月を見上げていた。

「あんなに月って紅いものかな?」

何かを予感させる紅い月。
不安な気持ちを助長する。

「…月は黄色が一番だな」

彼はそう呟くとカーテンを閉めた。

静かな時間が流れる。
今迄、感じなかった静寂。

「昔に見た事が有ったかな?
 それにしても嫌な感じだ。
 まるで月に笑われてるみたいだし」

何とも言えない感情が胸に広がる。
自分らしからぬ【負】の感情。

何処かで隆臥はそれを感知し、
また、そんな自分を嫌悪していた。

「俺らしくないって…」

隆臥はそう言うと自室を後にした。

* * * * * *

「月夜…ですね」

静かに都会を横切る車内で
聖がそっと口を開く。

「…そうですか」
「?」

「生憎、目が不自由なものでして。
 今宵の月がどの様な物かを
 自分で確認する事が出来ないんですよ」
「…紅い、月です」
「満月、ですか?」
「はい…」
「…そうですか」

瑠摩は何かを思い出したかの様に
ふと表情を曇らせた。

「最後に見た月と同じ、ですね」
「……」

ハンドルを握りながら
緋影もじっとその言葉を聞いていた。

瑠摩が述べた【最後】。
それは、神代を意味するものでも
前世、江戸時代を意味するものでもある。

決まって【紅い満月】だった。
切れぬ因縁、血を意味する【紅き】月。

「…戦いは既に始まっている。
 それを忘れない為の演出にも思えますね」
「誰の?」
「【運命】と云う名の道化師、でしょうか」

瑠摩は皮肉を篭めているらしい。

確かに、皮肉も言いたくなるだろう。
自分が望んで選んだ人生ではない。

自分が知る【戒天子】とは違う
瑠摩の人間らしい一面に
聖はふと好意を抱いている事に気付いた。

『選ぶしかなかった選択肢。
 選べなかった未来。
 確かに、似ているのかも知れない…』

聖は視線を都会のネオンに移した。
刹那的なその明かりが
まるで自分自身の様にも思えてきた。

『これからどうなるのかは
 誰にも判らない事だ…』

聖の目は、未来に向いていた。
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