Kapitel・1-16

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

「時折思うんだ。
 俺は一体何の為に生まれてきたのかを」

誠希は瞳を閉じたまま、
そっと胸の内を告白する。

「あの方の為になりたいと思った。
 この力もその為に有る。
 だが、それは俺の願いであって
 現実は…きっと違う。
 俺の力では…限界が有る」

「…どう云う意味だ?」
「俺の力は【防御】に突出している分
 【攻撃】は期待出来ない」
「だから緋影と組んでるんだろうが」
「…まぁな。
 しかし、緋影の能力も……」

「一つ、良いか?」
「何だ?」

「元々庶民の、然も文系出のお前や緋影じゃ
 戦士系の家柄出身だった瑠摩に
 攻撃で敵う訳無いだろう?」
「江淋…?」

「光源八剣士は見事な迄に
 色んな家柄が混在してるからな。
 能力もばらけて当然だ」
「……」

「攻撃に秀でているのは
 【力・義・戒】の3人だけだ。
 今の所はな」
「江淋……」
「もう一人居たか。
 しかし、欠番だから」
「……」

「その3人の中では
 俺が一番【攻撃】に適してるけどな」

江淋はそう言うと自嘲気味に笑った。

「傭兵出身のエリオス…。
 光にも闇にも恐れられた【闘神】か。
 全く、よく言ったもんだ」
「……」

過去が鮮明に思い出されている分、
江淋がそれを振り返る時は
決まって自虐的になる。

理由は、判っている。

【望まれざる】誕生と称された異端児。
結局最期までそれは彼に付き纏った。
彼に何の落ち度も無かった筈が
類まれなるその能力の為に。

「お前は…本当に強いよ」

誠希はそう呟くと
珈琲を喉に流し込んだ。

「ご馳走様。
 そろそろ行くよ」
「あぁ…」
「江淋」
「何だ?」
「珈琲の豆な、
 もう少し種類を選んだ方が良いぞ?」
「?」
「流石に少し渋かった。
 ブラックで飲むとな」
「出涸らしだから薄いと思ったんだがな」
「酷い奴だ。
 そんなんじゃ彼女に嫌われるぞ?」
「余計なお世話だよ」
「じゃあ…」
「あぁ…」

江淋は見送る事無く、
誠希もまた振り返る事無く、
二人は静かに別れた。

* * * * * *

大学の校庭の片隅。
木陰に隠れたベンチで
葵は静かに空を見上げていた。

『…やっぱり誰か見てるみたい』

先日から感じていた気配。
それはやはり自分だけが感じているのだろうか。

『誰なんだろう?
 あまり嫌な感じは受けないんだけど。
 知ってる人なら、声を掛けるわよね…』

葵はそっと視線を
気配の感じる方向に向けた。

「何か言いたい事が有るなら
 顔くらい出しなさいよね!」

毅然とした態度と言葉。

葵もまた、江淋との出会いで
何かを掴んでいたのかも知れない。
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