Kapitel・1-17

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

ここ数日、江淋の姿を見かけていない。
それが非常に不安を掻き立てる。

「…何か遭ったのかな?」

どうしてもそう思えてしまうのは
彼のもう一つの顔を知っているからであろうか。

あの時。
瑠摩や誠希に見せた、別人の様な表情。

「私じゃ…何か力に、なれない?」

葵は不安だった。

いつか彼が自分から離れていきそうで。
二度と会えない何処かへ、一人旅立ってしまいそうで。

「…会わないと」

葵はそう決意すると、学園を後にした。

* * * * * *

「珍しいな、お前がこんな深手を」

包帯を替えながら、緋影が顔を顰める。

背中に大きな刀の傷が残っている。
止血は効いているが、
油断するとまた傷口が開く様な
とても危険な状況だった。

「…まぁな。腕が落ちたか?」
「それはどうだか…」

緋影の表情は変わらない。
酷く思い悩んでいる様だ。

「敵の質が格段に上がったって事か」
「俺の油断だ」
「江淋……」
「敵の質も何もあるか。
 どちらも命懸けで戦ってるんだ。
 油断すれば傷も負うし、命も落とす。
 それだけだ」

江淋はさもそれが当たり前だと言わんばかりに
静かにシャツを着直そうとしたが
流石に傷が痛むのか、思った様に腕が伸びない。

「仕事、休めよ」
「…そうも言ってられんだろうが」
「無理するな、江淋。
 お前に何か遭ったら彼女はどうする?」
「……緋影」

緋影は包帯を片付けると、
彼に背を向ける様にして立ち竦む。

「彼女と逢って変わったのはお前だけじゃない。
 俺も…そうかも知れん」
「どう云う意味だ?」
「彼女の存在が、俺達を確かに変えているんだ。
 戦士として、人間として。
 本来俺達が【在るべき】姿に」
「……緋影」

「彼女の為にも、お前は此処でくたばる訳には行かない。
 お前の兄貴の為にもだ。
 違うか?」
「…確かにお前、変わったな」

江淋はふと苦笑を漏らした。

「そんなに饒舌な奴じゃなかった。
 いつもクールに決め込んで、
 ダンマリを通す奴だった。
 確かに、変わったよ」

江淋の言葉に、緋影が頷く。

静かな時間が流れていた。

* * * * * *

「ん?」
緋影は何かの気配を察知し、
黙って玄関のドアを開けた。

「…こんにちわ」
「やぁ……」

其処に立っていたのは葵だった。
来る予感はしていたが
実際、その姿を目にすると安堵感が広がる。

「江淋は…?」
「居るよ。一寸怪我したみたいでね。
 後は君に任せるよ」
「怪我っ?!」

其処からはまるで一条の風だった。
葵は緋影の横を擦り抜け、江淋に駆け寄る。

「大丈夫?」

緋影は静かにその様子を見つめていたが、
微かに頷くと 黙って部屋を後にした。
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