Kapitel・1-18

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

「誰にやられたの?
 病院には行った?
 警察は?」
「…落ち着け。大丈夫だから」
「だって……っ!」

慣れてしまった自分とは違う。
葵にとっては非現実な事態である事に間違いは無い。
どうすれば彼女を落ち着かせられるだろうか。
江淋の脳裏にはそれしかなかった。

* * * * * *

『敵の強襲?』
「はい」

緋影は携帯電話で瑠摩に連絡を取っていた。
部屋を後にはしたが、
手負いの江淋一人に葵を任せる気にはなれず
こうして待機する事にしたのだ。

『状況は?』
「背中に大きな傷を受けました。
 江淋だから大丈夫だとは思いますが」

『…それで?』
「はい?」

『お前の事だ。何か心配事が有るんだろう?』

瑠摩の口調はとても優しい。
江淋の傷も心配だろうが、
そんな事は億尾にも出さない。

「…辻谷 葵の事です」
『……』
「彼女に、事実を説明するべきでしょうか?」

時期が迫ってきている。
まだ目覚めてもいない彼女に
全てを話す必要があるのだろうか。
それとも、まだ伏せておくべきなのだろうか。

『江淋は、何と言ってた?』
「何も……」
『そう、か…』

瑠摩も答えを導き出せずにいる。

「瑠摩様」
『江淋に、一任しよう』
「え…っ?」
『今更我々がしゃしゃり出ても迷惑なだけだ。
 彼女の件は、江淋に一任する』
「…了解しました」
『但し、彼女のガードは今迄通りだ』

瑠摩らしい指示だと、緋影は静かに頷いた。

『引き続き、護衛を頼む』
「はい、了解しました」

緋影ははっきりとそう告げ、携帯電話を切った。

* * * * * *

「誰から?」
「緋影だ」
「…【勇天子】か」

聖はそう言うと、座っていたソファから体を起こす。

「敵さんもそろそろ本気を出したって事だな。
 義天子の存在は奴等にとって
 目触り以外の何物でもない筈だから」
「その通りだ…」

瑠摩は思案していた。
此方の動きに合わせるかの様に
兵力を増強された様な感覚。

「向こうには恐らく筒抜けだな」
「ん?」
「君と俺が揃ったって事」

聖もまた視線を鋭く変え、
瑠摩のパソコンに何かを打ち込んでいく。

「敵の正体、【闇一族】だとすれば…
 頭領は間違いなく【奴】だ。
 非常に戦い難いぞ。
 【奴】は俺達の手の内を全て知っている。
 能力も、性格までも」
「それでも…」
「ん?」
「戦わなければ、いけないんだ」
「…そうだな」

何か思う所が有るのだろう。
悲壮な決意を固める瑠摩に対し、
聖も歯切れの悪い返事をしていた。
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