Kapitel・1-19

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

時間が刻々と過ぎていく。
何の会話も無く、それだけを感じる。

「日が暮れたな。…送るよ」

江淋はそう言うと素早く立ち上がった。
怪我の影響は其処に無い。

「大丈夫よ、一人で帰れるから。
 江淋こそゆっくりしてて」
「そうはいかない。
 夜道に女一人帰らせる気にはならないよ」
「流石に、【泊まる】訳には…いかないわよ、ね?」
「勿論だ」
「……」
「送るから」

葵も流石にそれ以上は口に出来ず、
渋々彼の意に従った。

* * * * * *

多少は傷に響くのだろう。
江淋の歩はかなりゆっくりだ。
それを気遣いながら 葵も歩を合わせている。

『それでも、聞かないんだな。
 負傷の理由を』

本来ならば話をしなければいけないのだろうが
彼女が聞いて来ない事を良い事に
説明する事を避けている。

『何時までそれが可能だろうか…?』

暗い考えが、脳裏を過ぎる。

「江淋?」
「ん?」
「どうしたの? 考え事?」
「…大した事じゃ、無いよ」

言葉を濁そうとするも、雰囲気がいつもと違う為
更にぎこちなくなってしまう。

「ねぇ…江淋」

彼女の声が少し震えていた。

「誰かが…後ろに居ない?」
「……」

背後に神経を集中させる。
先程迄は気付かなかった【殺気】があった。

「…葵」
「何?」
「俺から離れるな」

江淋の言葉に、葵は静かに頷いている。

彼が精神を統一させると
アスファルトを通り抜けて水の壁が出現する。
江淋が生み出す【水の結界】だった。

「これ……?」

葵は目を見開いて、透明な水の壁を見つめている。

「この水の壁がお前の盾となる。
 此処から動くんじゃないぞ」
「…江淋?」

彼女を護る為にと決めた戦い。
自分のもう一つの顔を見せる事になっても、
それによって彼女が自分の元から離れる事になっても。

水の壁から外の世界へと身を乗り出した瞬間
暗闇から何かが彼めがけて飛ぶ。
それは【矢】の様だった。

「江淋っ!!」

葵の声が周囲に響く。

『お前の為なら、俺はどんな状態でも戦える』

江淋の心の声は、彼女に聞こえていただろうか。

* * * * * *

漆黒の矢が真っ直ぐに向かってくる。
逃げる気など無い。
江淋は静かにその矢の嵐を見つめ
何かを呟いた。

微かに動いた、唇。

「……決メ、タ?」

葵はその唇の動きを正確に読み当てたが
意味が解らないでいた。

「決めたって…何を?」

直後、激しい轟音と光に彼の姿を見失う。

「?!」

耳と目は当てにならない。
地面にしゃがみ込み、
彼女は気配で江淋を追っていた。
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