Kapitel・1-2

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

「やけにデカい図体の男だな」

家を訪ねた時、開口一番
隆臥がそう言ってきた。

「えっ?」
「アレ、お前の彼氏?」
「…うん。一応」
「何処の組の者かと思ったよ。
 何て言うの、
 威圧感が凄いな」
「…貴方と同じフリーターだって」
「へぇ…」

「まぁ、工事現場で働いてるから
 どうしても体格が隆臥と違ってくるわよね」
「俺は…基本が営業周りだし。
 あと接客業」
「その違いじゃない?」
「…そうかなぁ?」
「?」
「凄くない、あの傷跡」
「…隆臥」

葵は嗜める様に口を尖らせる。

「悪い…。
 お前、そう云うの嫌いだったな。
 人間の本質は内面にあるって
 常々言ってるから……」
「判れば宜しい」

葵はそう言うと
ニコっと微笑んだ。

「隆臥が心配してくれるのは嬉しいけど、
 本当…彼は悪い人じゃないから」
「何でかそう言い切れるんだな。
 昔からお前ってそうだ…」

お代わりの珈琲を味わいながら
隆臥はふと振り返る。

「お前は…動植物に愛されてるよな。
 どんな動物もお前には懐いて…。
 子供心に不思議だった」
「そうかな…?」
「そうだよ。
 お前には警戒心や敵対心が無いんだ。
 動物は敏感だから
 そう云う【負の感情】には直ぐ反応する。
 それがお前には無いって事さ」
「……」

褒められて恥ずかしいのだろう。
葵は顔を真っ赤にして俯いた。

「お前の彼氏、
 もしかして【野生動物】並?」
「隆臥ッ!!」

赤面したまま怒る葵を
隆臥は楽しそうに見つめていた。

* * * * * *

古いアパートの一室。

江淋は珍しく誰かを上げていた。

「…安い酒しかねぇけど」
「構わない」

相手は緋影だった。

江淋の事が気になったのだろう。
彼は単独で江淋を訪ねて来た。
実に珍しい事だった。

江淋自身も緋影とは馬が合うらしい。
余計な詮索はしない。
それが心地良かったのだ。

「良い顔を、する様になったな」
「そうか?」
「…あぁ」

「…彼女の御蔭かもな」

江淋の呟きは聞こえていたが
緋影は敢えて答えなかった。
これが瑠摩や誠希なら
即時に答えが返ってくるところだ。

「仕事はどうだ?」
「まぁな、順調だよ。
 慣れた仕事だからな」
「そうか…」

緋影は酒を喉に流し込んだ。

「…江淋」
「ん?」
「邪魔者は…消せよ。
 彼女の為にも」
「勿論だ」
「…例えそれでお前が
 【能力者】だと知られても…」
「彼女を守る為なら躊躇はしないさ」

それが二人を分かつ事になっても。

江淋の心の言葉は緋影に届いていた。

「お前が愛する女なら
 大丈夫さ……」

それが、緋影なりの精一杯の言葉だった。
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