Kapitel・1-3

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

瑠摩は先程から黙々と
仕事をこなしている様子だった。
傍らで心配そうに
誠希が様子を伺っている。

「……」
「…どうした?」

それに気付いたのか、
瑠摩がふと顔を上げる。

「お疲れじゃないですか?
 ここ数日、睡眠を取られてませんし」
「…仮眠程度なら取ってる。
 食事もしているし、大丈夫だよ」
「しかし……」
「少し慌しくなりそうなんだ」
「えっ?」

「天寺教授の失踪の件は…
 知っているな」
「はい。
 そしてお孫さんからメールが…」
「その孫が、
 イギリスから緊急で帰国するらしい」
「…何時ですか?」
「一週間以内だ」
「随分と早いですね…」
「あぁ。
 向こうも【光源八剣士】を捜していた様だ」
「やはり、そうですか」

「目的は…解らないがな。
 自分達と同じなのか、或いは違うのか」
瑠摩は静かに溜息を吐く。

「【智・力・仁・勇・義・戒・忠・信】…。
 揃った剣士は…4人。
 後半数は…まだ未確認」
「…瑠摩様」
「闇一族よりも先に見つけ出さなければ…」

瑠摩が恐れているのは
【闇一族の襲撃】だった。
天寺教授の失踪も彼等の仕業かも知れない。
手段は選ばない。
それが彼等なのだ。

「…江淋の両親も、兄も
 彼が【光源八剣士】じゃ無ければ……」
「瑠摩様」

誠希はそっと微笑み、
温かい珈琲を差し出した。

「淹れ立てです。
 どうぞ…」
「誠希……」
「どうかお一人で悩まないで下さい。
 俺が傍に居ます。
 いつだって…貴方の傍に居ます……」
「誠希…」

「俺だけじゃありません。
 緋影も居ます。
 だから……」
「誠希……」
「仲間じゃないですか。
 俺達は同じ定めを受けた、
 仲間じゃないですか……っ!」

誠希は普段感情を顕にする方では無い。
穏やかで、物静かな青年だ。
そんな彼が此処まで気持ちを顕にしている。
そう、自分の為に。

「…有り難う、誠希」

瑠摩は漸く笑顔を取り戻し、
温かな珈琲を手に取った。

* * * * * *

「あのな…」

江淋は何か照れ臭そうに呟く。

「何ですか、江淋さん?」
「俺の事は、その…
 【江淋】で良いから」
「でも……」
「一応、俺達は付き合ってるんだよな?」
「えぇ…」
「じゃあ、遠慮は止めにしないか?」
「……。
 良いんですか?」
「普通に友人と話す感じで良いんだよ」

江淋はそう言いながら
葵が余り異性と付き合った経験の無い事に
安堵していた。

彼女に幼馴染が居る事は知っているが
付き合っている訳じゃないのも判る。

「じゃあ…【江淋】」
「何だ、葵?」

江淋は彼女の勇気に感謝し、
笑顔を浮かべた。

彼女にだけ見せる、笑顔。
彼女だけには見せられる、笑顔。

『俺は…
 彼女が【辻谷 葵】だから好きなんだ。
 【セルバール】の転生だから
 好きになった訳じゃない……』

江淋の心の声は
勿論、葵に届いては居ない。
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