Kapitel・1-21

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

こうして戦うのは何時以来か。

剣を振るいながら、江淋は遠き過去を甦らせる。

誰の為に、何の為に戦っていたのだろう。
転生を繰り返しても尚、見えない答え。

「…少しはランクが上がった様だな」

緋影はそう呟きながら、
ピアノ線の様に細い武器で敵を仕留めていく。

先程から協力して戦っているのだが
気の所為だろうか、一向に敵が減らない。
同様の事は防御に徹している誠希にも言えた。

「後から後から湧いてくる。どう云う事だ?」

霊気のドームに守られながら
それまで静かに戦況を見つめていた葵だったが。

「…違う、のかも」
「違う? 何が違うんだい?」
「敵は…1人しか居ない気がするの。
 目に見えてる数程、気配を感じないから」
「……気配」
「本当は、最初から【1人】だったんじゃないかって…」
「1人分しかない気配…」

誠希も何かを察したらしい。
敢えて反撃には出ずに、相手の様子を窺っている。
物理的ダメージは返って来ない。

「鏡…。そうか、まんまと騙されたっ!!」

最初からそうだった。
やはり敵は1体しか存在しない。

だが、それを悟らせずに多勢で攻めて来た様に見せ掛け
狙い通り、彼等を消耗させている。
葵が気配の違和感に気付かなければ、
全滅していたかも知れない。

『やはり…彼女こそセルバールの転生体か。
 記憶が蘇っていなくても
 この察知能力の高さは…只者じゃない。
 奴等が復活を恐れる筈だ』

誠希はドーム破壊の危機が無いと判断し、
静かに葵を見つめる。

「江淋達の加勢に行ってくるよ。
 壁は念の為に強化しておいたけど、
 万が一と云う事も有る。
 戦いが終わる迄は、此処で待機してくれよ」
「誠希さん…」

不意に葵の声が耳に届く。

「江淋と…緋影さんを、宜しくお願いします」
「あぁ、任せてくれ」

誠希は嬉しかった。
こんなにも自分達を信じ、応援してくれる存在。
あの頃と変わらない、その優しい心が。

「行ってくるよ」

彼はそう言うと、一瞬で姿を消した。
テレポーテーションである。

* * * * * *

一向に減りもしない敵に苛立ちが募る。
愛用の剣を振りながら、江淋はその先を睨み付ける。

手応えはある。
それ相応の数は倒してきた。
だが、敵は不死身なのか。
斬っても斬っても湯水の様に湧いてくる。

「…変だな」

同じ違和感は緋影も察していた。
だが、それを確かめる時間的余裕は無い。
目の前に襲い来る敵を薙ぎ払うのみ。

「……っ?」

不意に緋影が声を上げる。
何かの攻撃が当たったらしく、顔を顰めていた。

「大丈夫か?」
「…あぁ」

痛みで表情を曇らせていたが、彼の声は明るかった。

「随分と優しいじゃないか」
「何がだ?」

「俺の心配してくれるとはな。嬉しいよ」
「…戦闘に集中しろ」

江淋はフッと口元に笑みを浮かべ、背中を向けた。
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