Kapitel・1-22

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

既に時間の感覚も掴めず、
疲労が更に動きを妨げる。
これだけ戦っていると云うのに、
雑魚ばかりが視界を支配し
肝心の敵の姿が見えない。

「どうなっているんだ、一体?」

流石に焦りが生じてくる。
剣の柄が汗で握り辛くなって来ていた。

「江淋! 緋影!!」

闇に響く誠希の声。
だが何故かその姿は見えず。

「誠希…? 何処だっ?!」
「くっ、声は聞こえているのに
 何処に居るのかが判らない……」
「音から場所は掴めそうか、緋影?」
「…何となく、程度だ。
 ノイズが酷くて特定出来ない」

酷く頼りなげに緋影が返答する。

先程から、何かがおかしい。
敵はおろか、味方の立ち位置すら判らないとは。

「…下らん知恵が回る奴だな」

江淋はそう毒吐き、先を見つめた。
濃い霧に包まれた様な視界の悪さ。
その先に居るであろう、真の敵。

「まさか…【奴】、か?」

江淋はそう呟き、思わず表情を強張らせた。

『【奴】だとしたら…非常に拙い』

緊張がピークに達しているのを、
江淋も、緋影も、そして誠希も感じていた。

* * * * * *

「…沙羅蔓陀様」

恭しく頭を垂れる部下を静かに見やり、
沙羅蔓陀は紅く輝く月の光を感じていた。

「今度はどうだ?」
「はい、法師を送りました。
 きやつの知恵には流石の光源八剣士も…」
「侮るなと、言った筈だ」
「はい? と、申しますと…?」
「次を送っておけ」
「沙羅蔓陀様…?」

「我々の敵が直接戦える奴だけだと思うな。
 奴等の下には仁天子が存在する」
「しかし仁天子は…」
「仁天子は全ての力を無に返す。
 法師の力の源が明らかになれば
 彼女の能力で相殺されるだろう」

沙羅蔓陀はそう言い切ると鼻でフッと笑う。

「無力化されれば法師は雑兵よりも弱い。
 それは判っていた事だろうな?」
「…いえ、其処迄は……」
「だから【見解が甘い】と言ってある」

沙羅蔓陀は冷静に分析している。
部下の戦力。
そして光源八剣士の事も。

「奴等は常識を超えた存在だ。
 尺度など無意味。
 可能性が無限に広がる恐るべき戦士。
 過去に戦って、それは痛感しているであろう?」
「は…はい……」

「生まれ変わり、記憶が不完全でも
 奴等には持って生まれた資質と能力がある。
 本気で奴等を倒したいのなら
 それなりの戦力を整えろ。
 今の戦力の増員では
 奴等を更に強くするだけだ」

彼は静かに椅子を立つと
扉に背を向け、月を見つめた。

「報告は終わりか?
 ならば、退室せよ」
「は…はい…。失礼致しました」

部下は再び恭しく頭を下げ、
静かに部屋を後にした。

沙羅蔓陀の心に去来する思いは
誰にも解らないだろう。

「どれだけ強くなったのか見てみたい。
 それ迄、倒れる事は許さん」

嘗て戦った宿敵。
彼等の成長を何処かで望んでいる自分。
沙羅蔓陀は穏やかな笑みを浮かべ、
静かに月が欠けるのを見つめていた。
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