Kapitel・1-23

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

『戦いが終わる迄は、此処で待機してくれよ』

誠希にそう言われてはいたが、
葵はどうしても不安が拭えずに居た。

ずっと付きまとうこの雰囲気。
彼女だけが感じる違和感。
雑魚は何時頃からか姿を消し、
殺気はまるで感じない。

「やっぱり…変だよ」

葵は意を決し、結界を左手で触れた。
通り抜けようとしたのだ。

すると壁状になっていた光は粒子へと変化し、
彼女の手のひらへと吸収されていく。
同時に、彼女の脳裏へと流れ込む感情。
江淋と、誠希のものであった。

「放っておけないんだもん。
 無関係じゃないもん。
 それだけの理由でも…良いよね」

彼女は光を吸収した左手を強く握り締め
誠希の後を追った。

* * * * * *

霊気が奪われている事に気付いた時には既に遅く、
3人は立っているのがやっとの状態だった。

朧気にしか見えない敵の姿。

「心身共に疲れ果てたでしょう。
 さぁ、長き眠りにつきなさい……」

勝ち誇った様な口調に歯噛みするも
反撃に出る事も出来ない。
言われた通り、何も出来ないのが現実だからだ。

「一体…どんな技を…?」

誠希は周囲を見渡すが、
そのような形跡は見つけられずに居た。

「くっ…。【奴】では無いと云うのに…」

緋影が呟いた【奴】と云う単語。
最悪の状況は避けられたのだが、
それでもこの状況では。

「…ん?」
「…どうした、江淋?」
「莫迦野郎…。何故……?」
「これ、は……」

2人もその正体に気付いた。
結界を解除した葵が、戦場に辿り着いたのだ。

「葵……」

動かない体に対し、懸命に力を篭めて動かそうと
江淋は唯、彼女を守る為に必死であった。

* * * * * *

「これはまた…上質な霊気の持ち主ですな」

歓喜の声を上げる敵に対し
葵は無視を決め込んでいるのか、
全く相手にする事無く3人に駆け寄る。

「こら、小娘! 私の話を……」
「葵! 俺達に近付くな!!」
「動けなくなる! 逃げるんだっ!!」

江淋、誠希の言葉に彼女は笑顔を浮かべている。
彼女だけが【変化していない】のだ。

足元に薄らと浮かび上がる文字。
それが罠、呪縛の正体であった。
呪縛の印も、彼女が触れる度に消滅していく。

「何っ?!」

驚いたのは敵の方だった。

「呪縛の印を消し去る?
 この私しか不可能な技を…何故…?!」
「其処までだな、影法師」

闇夜の中から更に声が響く。
聞き覚えの有る声。

「影法師…?」

呪縛から解き放たれた3人が体制を整えると
声はいつの間にか聞こえなくなっていた。

「…影法師。そうか。
 この技の仕業もそれなら合点が行く」

江淋は鋭い視線を敵、影法師に向けた。
殺気漲るその視線に、流石の影法師も動けない。
蒼い一筋の光が影法師に向かい、衝突する。
砕け散る光と影。

勝負は一瞬だった。
真っ直ぐにぶつかれば負ける相手ではない。

「…油断大敵、だったな」

緋影の言葉に、誠希は深く頷いた。
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