Kapitel・1-24

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

「皆、大丈夫?」

葵が心配そうに顔を覗き込む。

流石に疲れと怪我がはっきりと見えており
言葉だけ「大丈夫」と誤魔化そうにも無意味だろう。

「痛い?」

そっと江淋の頬に触れると、
不思議にその部分の痛みが退いた。

「……どうして来た」
「江淋?」

驚いたのは誠希である。

「お前、幾ら何でもそれは…」
「…確かに、彼女が来たから助かったのは認める。
 だが…俺は結界から出るなと言っただろう?」
「それは……」

「此処は戦場だ。
 命を懸け、戦う場所だ。
 誰も手を抜く事は無いし、容赦も無い。
 お前自身が狙われる危険性が限りなく高いんだ」
「…江淋」

「これからは無闇に結界から出るな。
 解ったな」

「…貴方が、苦しんでいても?」
「それは俺が単に力不足なだけだ。
 力の無い奴は死ぬしかない」
「私は…」

葵はかなり強い視線を江淋に向けていた。
並々ならぬ決意。

「貴方を死なせたくないから」
「……」

「何も出来ない事は解ってるわ。
 だからと言って…
 見て見ぬ振りなんて出来ない。
 黙って結界の中で待ってられない」
「葵!」

「大切な人が苦しんでいるのを、
 傷付いているのを、
 ただ黙って見てられないわよ!」
「それが何を意味しているのか
 解って言ってるのかっ?!」
「解らないわよっ!!」

互いを心配する余りに口論となっている。
その激しい剣幕は、過去の2人には重ならない。

誠希と緋影は顔を見合わせ
思わず大声で笑っていた。

「…何だよ」
「確かに、俺達は【転生】したんだと
 改めて実感しただけさ。
 なぁ、緋影?」
「…あぁ。全くだ」
「……」

江淋も思い当たる節が有るのか、
急に黙り込んだ。

「…江淋。これは俺からの提案なんだが」

誠希は表情を改め、彼を見つめる。

「彼女に…正直に話すべきじゃないかな。
 これ以上、危険な目に遭わせない為にも」
「……」
「知る事が、危険回避に繋がる事もある。
 何も知らない今の方が危険だ」
「敵がそんな事情を知って攻撃してくる訳でもないしな」

緋影もさり気なく誠希に同意している。

「真実を…共有する時が来たのかも知れない」
「真実…?」

葵は何の話なのか判らないと言う顔をしている。
無理も無いだろう。
この状況下で彼女はよく頑張っている方だ。

「…そう、だな」

江淋は漸くそれだけを呟いた。

本心はまだ、避けたいと思っているかも知れない。
だが現実は予想に反して、早く動いてしまっている。

「俺達も居る。
 一人で悩む必要は無いからな」

誠希に肩を叩かれても、江淋は一人浮かない表情だった。

* * * * * *

「思わぬ展開だったな」

戦場を見下ろせるビルの屋上。
月の明かりが2つの影を形成している。

「影法師か。
 レベル的には大した事の無い相手だが
 流石に不意打ちされると苦戦は必死だ」
「……」

「まぁ、よくやった方じゃない?」
「我々は今回、傍観者だった訳だ。
 敵の正体もゆっくり知る事が出来た。
 戦場に居る彼等とは立場も環境も違う」
「でも、君はかなり早くに見抜いてただろう?」
「…自分は目が不自由だからね」

「この場合、大切なのは肉眼じゃない。
 真の姿を見抜く心の目だ。
 戦いに必要なのは…心の目だよ」
「聖……」

1つの影の主が月の光に照らし出される。
瑠摩はサングラスをしたままだが
かなり険しい表情を浮かべていた。
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