Kapitel・1-25

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

目下で繰り広げられた戦闘に
参加する事が叶わなかった苦しみは
戦士として生易しいものではないだろう。
苦々しい思いを何とか封じながらも
瑠摩はその場所から動こうとはしなかった。

「瑠摩?」
「…皮肉なものだ。
 自分は戦士として生まれ、
 育って来たと云うのに」

「それは前世での事だろう?」
「今も同じだ。何ら変わらないさ」
「……」

聖は何かを言おうと一瞬口を開いたが
やがて、思い直したのか
微笑みながら口を噤んだ。

「…聖?」
「彼等もそろそろ引き上げる様だ。
 我々も此処から退散するかい?」
「…そうだな」

瑠摩はそう同意すると
聖と共に瞬時に姿を消した。

* * * * * *

一方、江淋の自室。

疲労とダメージが一番甚大だった彼を休ませ、
その隣には緋影が陣取っている。
葵は誠希が自宅まで送って行った。

「…何だ?」
ふと視線が合った瞬間、
思わず緋影が口を開いた。

「…気付いてたか?」
「…あぁ」
「やはり、そうか」

江淋はふっと苦笑を浮かべ
そのまま瞼を閉じる。

「聖…だったか。
 【智天子】の悪巧みに
 片棒を担がされていたみたいだな」
「江淋、それは…」
「高みの見物など…
 アイツの、瑠摩の趣味じゃない。
 …俺はそう思ってるから」
「確かに…そうだ…」

江淋なりに瑠摩を認め、
評価しているのだろう。
それは…良く解る。

「…有難う、江淋」
「…礼なんぞ、要らんよ」

照れ臭さを隠す為に
江淋は態とシーツで顔を覆った。

* * * * * *

ぼんやりと夢を見ている。

紅い月の下で、自分は何故か戦っていた。
どうして戦わないといけないのか、
激しく自問自答しながら。

しかし倒れる訳には行かないから
己を信じて戦い抜くしかない。

今の己。
それは本当に【自分】なのか?

「最近 夢見が悪いんだよね」

隆臥の言葉に、彼の母親は首を傾げている。

「どんな夢?」
「起きたら忘れてるんだけど、
 何故か後味の悪さだけは覚えてるんだ」
「まぁ……」
「疲れ、溜まってるのかな…?」
「そうかも知れないわよ。
 少し休んだら?」
「う~ん。
 まぁ、スケジュールを調整しつつ
 何とかするよ」

隆臥はそう言って微笑むと
不意に視線を窓に向けた。

「葵ちゃん、最近忙しいのかしらね?」

彼の考えに気付いたのだろう。
母親がそっと呟く。

「…みたいだよ」
「残念?」
「…何が?」
「葵ちゃんに彼氏が出来ちゃって」
「……」

幼馴染だけに
いつも隣に居るのは自分の特権だと思っていた。
しかし、そう思っていたのは自分だけだったのだ。
独り善がりな想いに気付かされ、
自己嫌悪をしている。

不思議とあの2人に対して
腹が立たないのは、きっと…。

「葵ちゃん、幸せになって欲しいわね」
「嫁に出したみたいで変じゃない?」
「そうかしら?」
「…そうだよ」

隆臥は、母の優しさに感謝しながらも
思わず苦笑してしまった。
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