Kapitel・1-26

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

影法師の襲撃より凡そ2週間が過ぎた。

葵は次の日から謎の疲労に見舞われ
ずっと床に伏せる日々を強いられた。
無意識に能力を発動させた反動であろう。

江淋自身も傷の治りの悪さに苛立ちつつ、
何とかメールで互いの状態を確認し合っていた。

「霊気を消耗し過ぎたな。
 治癒に間に合わない状況だ」

傷の具合を確認しながら
誠希が心配そうに呟く。

「敵は…徹底的にお前を潰したいらしいな、江淋」
「当然だろうよ」

痛みに顔を顰めながら、寝返りを打つ。

「飯は?」
「…お前、食ったのか?」
「いや、まだだよ」
「誠希に任せる」
「素直に『食いたい』と言えって」

正直、笑った衝動でさえ傷に響く。

「野菜多目の確りとした飯を準備するよ」
「頼む…」

多少疲れたのか、江淋は瞼を閉じると
そのまま寝息を立てていた。

* * * * * *

少し時代を感じさせる造りの庭で
1人の青年がじっと空を見上げている。
寂しげな横顔が忘れられない。

「誰だろう、あの人?」

傍に近付く事は躊躇われていた為、
葵は距離を置いて様子を伺っている。

向こうは此方側に気付いてはいない様だ。

神秘的な濃紺の髪と瞳。
もっと良く見てみたいと思い、そっと近付く。

「…江、淋?」

確かに、造詣は江淋そのものであった。
彼よりもかなり険しい表情、
それは以前一度だけ見た事の有る
【戦士】としての彼の顔と全く同じ。

「江淋、なの…かな?」
「誰だ?」
「?!」

葵の姿は青年から見えていない筈だ。
それなのに彼は、葵の存在に気付いている。

「…私が、見えるの?」
「声が聞こえるだけだが」
「そう…なんだ…」
「君は、誰だ?」
「私……」

葵は一呼吸置き、素直に名乗った。
心の何処かで『コレは夢だ』と
認識しながら。

「葵。辻谷 葵…」
「アオイ、か」
「貴方は?」
「俺は、エリオス。
 エリオス=フェニックス」
「エリオス……」

彼が答えてくれた事が何よりも嬉しかった。
葵の声が自然と喜びに高鳴る。

「貴方ね、
 私の知ってる人に良く似てるの」
「…俺に?」
「えぇ!
 とても優しくて、強い人」
「戦士、か?」
「そうよ。誰よりも強い、戦士。
 どんな時も私を護ってくれる人」
「そんな存在が居るのか。
 稀有な…」

口調はぶっきらぼうだが、
エリオスもまた、
葵との会話を楽しんでいる節が有る。

静かにゆっくりとだが
確かに彼女の語りに応じているからだ。

「アオイ。
 お前の知る戦士が羨ましい」
「どうして?」
「俺には護るべき存在が居ない。
 だが、俺は戦わなければならない。
 自分の思いとは裏腹にな」
「そんな……」

だが、とエリオスは続ける。

「お前との出会いが
 俺に何かを与えてくれるだろう。
 そんな気がする」
「エリオス…」
「また逢いたい、お前と…」

彼が初めて見せた笑顔。
それは紛れも無く
自分の良く知っている
【江淋】のものだった。
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