Kapitel・1-28

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

「表情が少し変わったみたい」
「そうか?」
「…うん。何か良い事有ったの?」

駅近くの喫茶店で
江淋は学校帰りの葵を誘った。

「少し、有った…かな?」
「少し?」
「あぁ。少しだけ」

江淋は苦笑いを浮かべながら
珈琲で咽喉を潤す。

「色々と…お前には
 話さないといけない事が有ってな」
「あの変な人達の事?」
「それも有るが…」
「?」
「俺自身の事も…」

いつも必ず見せる哀しげな瞳。
その先を知りたくないと
葵はいつも避けていたのかも知れない。
真実から。

「変えてくれたのはお前だよ」

江淋はそう言うと不意に顔を背けた。
頬が微かにだが朱色に染まっている。

「照れちゃって。可愛い~」
「…ふん」

歳に似合わぬ幼い彼の表情に
葵は暫し見とれていた。

* * * * * *

瑠摩は久しぶりに自室で一人寛いでいた。
此処最近 敵の動きは感じない。
報告にも変化は無く、静かな日々が続いていた。

そんな時はいつでも思い出す。
自分の昔の姿。
ワイバード、そしてもう一人の瑠摩。

火の使い手として戦い抜いた過去の自分を
ゆっくりと反芻している。

「そう言えば…
 彼女は無意識だが、
 覚醒し掛けているみたいだったな」

ふと葵の事が気に掛かった。

「何も知らずに、と云うのは
 やはり不憫なものだ。
 だが、あの苦しい思いと
 真正面から向き合う事も…」

そう言い掛け、止めた。
今更である。

「【光源八剣士】を揃える為に
 情けは捨てた筈だ。
 そうだろう、【瑠摩】?」

自分を厳しく戒め、自嘲する。

「何の為に仲間を集め、
 何の為に闘うのか。
 それが定まっているのなら
 今更迷いは不要だ。
 油断を生み、敵に隙を与えるだけ」

瑠摩はそう呟き、
自室をゆっくりと後にした。

* * * * * *

「木星が輝いている…」

大きな窓から覗く黒い空を見上げながら
沙羅萬陀はそう呟いていた。

「八剣士…。
 新たな戦士が目覚めるのか」

沙羅萬陀の瞳には
輝ける惑星の数々がハッキリと映っている。

「水星、金星、木星、土星、
 天王星、海王星…そして、冥王星。
 7人の戦士が現世に蘇った事になる」

彼は踵を返して自分の席に着いた。
瞳はまだ、惑星を追っている。

「間も無く…八剣士は全員揃う。
 伝説通りに」
「左様で御座いますね」

柱の影から不意に声が響いて来るも
沙羅萬陀は驚く事無く
寧ろ平然としている。

「お前か、ヘイネル」
「はい、閣下」
「相変わらず悪趣味な奴だ。
 そうやって我が前に現れたと云う事は…
 次はお前が行くと言うのか?」
「そのつもりで御座いますが
 如何致しましょうか?」

「…」

沙羅萬陀は暫し考えていた様子だったが。

「任せよう。
 好きにするが良い」
「はい、有り難き幸せ」
「但し…」
「はい、何か?」
「【仁天子】には手を出すな。
 解ったな」
「…御意」

ヘイネルは一度も姿を見せる事無く
音も無く気配を消した。

「これから大きな嵐が
 吹き荒れる事になる。
 さて…どう動くかな、八剣士達?」

沙羅萬陀は微笑を浮かべ
再び視線を薄暗い空に向けた。

紅い月が此方を見て
薄笑いを浮かべている様だった。
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