Kapitel・1-29

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

静かに風を感じながら、
誠希は車を運転している。
後部座席には瑠摩。
いつものスタイル。

穏やかな陽の光が
瑠摩の四肢に降り注ぐ。

元々室内作業が多く、
肌の白い瑠摩ではあるが
少々外出をしても
肌が焼けたりする事は無い。

濃い目のサングラス。
その奥に隠された瞳は
見えないながらも太陽の姿を追う。

「又、スケジュールが立て込んで来てますね」
「そうだな…」

心配そうな誠希の声に
瑠摩は苦笑で返した。

「マネージメントが下手なんだ。
 まぁ、部下の失態は上が背負わんと
 集団は成り立たないだろう?」
「それはまぁ、そうですが…」
「ん? 何だ?」
「重責が一人に集中するのは
 余り得策とは思えません。
 自分が口を挟むべき事では無いと
 重々承知の上ですが…」
「いや、そうでもないさ」

瑠摩は相変わらず空を見上げている。
バックミラー越しに見える
その表情は変わらない。

「一人で何もかも背負うのは…
 正直、疲れるな」
「瑠摩様……」
「セルバールも、エリオスも…
 結局は己の胸に全てを秘めたままだった。
 そうさせてしまったのは…
 我々の責任だ……」
「…そうですね」

暫しの沈黙が流れる。
2人の脳裏に過ぎるのは過去の出来事。

「江淋も…エリオスと同じ道を
 辿ろうとしていた。
 無意識なのか、意識的なのか…」
「意識的…かも知れません」
「そう思うか、誠希?」
「…はい」
「…そうか。同じだな」
「……」

光源八剣士はいずれ全員揃うだろう。
それは、実感している。

現に今、5人集結している。
目覚めていない【仁】の戦士。
そして行方知れずの【信】と【力】の戦士。
残るは3名のみ。

問われる事になる。
自分達の【存在意義】を。
【闘う理由】を。

「いずれ、判るさ…」
「…?」
「…独り言だ、気にするな」

瑠摩の言葉に、誠希は静かに頷くのみだった。

* * * * * *

ザワザワザワ…。

耳障りな音が聴こえて来る。
もう、かなり前からだ。

人の気配はしない。
それよりももっと【重い】気配。
こんな感覚は初めてだった。

「又 新手のストーカーか?
 勘弁してくれよな、全く…」

葵目当てのストーカーなら
或る程度の防衛策は有る。
自分が気配を察知すれば良い。
正体が掴めれば江淋に任せても良い。

だが、この気配が狙うのは
どうも葵ではない様なのだ。

「まさかね…」

隆臥は流石にそう思いたくは無かった。
自分が【ターゲット】であるとは。

「俺なんか狙ったって
 何も面白い事無いんだけどな。
 金も無いし…」

理由が判らない。
それが一番不気味である。

何よりも【本能】が囁く。
この気配は【危険】だと。
隆臥はこの警告を強く受け止めていた。
だからこそ、気配を察しても
慌てたり取り乱したりはしない。

『何者なんだ…?』

魔の手は確実に、
隆臥に忍び寄っていたのである。
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