Kapitel・1-30

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

紅い月が不気味に輝いている。
もう何度か目にした、
【血の満月】と呼ばれる現象。

この場所は時間を感じないが、
確かに変化は感じ取っている。
もう一つの世界に転生した
【仲間】の存在を。

敵が襲って来ないこの静粛に
一抹の不安を抱えながらも
雷摩は静かに、今を体感していた。

今。
過去でも、未来でもない…今。
それが一体何の意味を為すのか。

「流石に俺の頭じゃ解らんな。
 【智天子】か、若しくは【戒天子】でなければ…」

そう呟き、ゆっくり立ち上がる。
生暖かい風がそっと髪に触れる。

遠くを見つめていた。
その姿を確認する事は難しい、
自分達の敵が潜む【居城】を。
それが存在する筈の場所を
彼は睨み付けていた。

「今は小康状態かい。
 敵もなかなか考えてくるじゃねぇか。
 じゃあ遠慮無く、此方も休むかね」

雷摩は卑屈な笑みを浮かべると
そのまま、視線を天に向けた。

嘲笑うかの様に輝く、あの紅い月に。

* * * * * *

微かに感じる気配。
やはりこの間から【自分】を見ている。
複数の様な、単体の様な。

「…俺、何かしたっけ?」

隆臥は必死に気配を追い掛けるが
それを察すると不意に消える。

今迄こんな事は無かった。
そんな過去の経験が
益々彼を追い詰めて行く。

「一度警察に話してみる…かな?
 あぁ、でも…
 【自意識過剰】とか言われると
 それはそれで落ち込むな…」

ふと胸ポケットに収納した
携帯電話の存在が気になる。
何気なく取り出し、
電話帳をザッと見渡す。

或る人物の所で、視線が止まった。

【嶺崎 江淋】

「アイツなら…大丈夫、かな」

彼の脳裏に何故か江淋が浮かんでいた。

この理不尽な出来事も
何故か江淋なら解決して来る様に感じたのだ。
理由等無い。
それは殆ど【直感】だった。

「一度連絡を入れてみるか…。
 葵に対しては口止めを頼もう。
 変な心配させたくないし…」

葵だけは巻き込みたく無かった。
江淋もその事は快く了承してくれる筈だ。

「出てくれれば良いんだけどな…」

隆臥はそう呟きながら
登録された番号に発信していた。

* * * * * *

瑠摩とは離れた場所で
緋影は唯一人、街を眺めていた。

以前はそれ程感じなかった。
親の顔も知らずに育った為か
世間に対しての関心も薄かった。
誠希だけが、自分の世界の全てだった。

そんな彼の閉ざされた扉を
優しく開いてくれた人物。

理由は、必要では無かった。

その人物の為だけに
今度は生きてみたくなっていた。
そして…今。

「俺が【俺で在る】事に気付いたのは…
 何時からだったんだろう…?」

【光源八剣士】の一人、【勇天子】。
そんな自分の真の姿に気付いたのは
瑠摩と出会ってからだ。
彼と会わなければ…
自分も、誠希も気付かなかっただろう。

生まれて来た【理由】を。

「それはそれで…
 【幸せ】な事だったんだろうよ」

フッと笑みを浮かべながら
緋影は吸っていた煙草を
愛用の携帯灰皿へと捨てた。
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