Kapitel・2-1

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

澱んだ青空、等と云うのは存在するのか。
しかし、今目の前に広がる空は
正にそんな表現の似合う色だった。

「空…か」

黙って見上げていたかと思うと
不意に江淋は口を開いた。

「どうしたんだ?」
「いや…大した事じゃない。
 気にしないでくれ」

隆臥は何処か落ち着かない表情をしている。
それを感じ取っているからこそ
彼は微笑を浮かべて話を続けた。

「で、何だって?
 お前にストーカーが出来たって話だよな?」
「嬉しくない話だよ…」
「確かにな。で、お前の事だから…」

「あぁ、一応はどんな奴か確認しようとしたよ。
 だけどさ、姿が見えないんだよ。
 気配だけはするんだけど…」
「気配…か」

隆臥の特異な感覚に関しては
葵から色々と話を聞いている。
普通の人間が姿を隠したくらいで
彼の追跡能力を回避出来るとは考え難い。

『だとすれば、奴等なのか…?』

江淋の瞳が一瞬だが険しくなる。
敵の狙いが判り難い。
隆臥を狙うとしたら、理由は何か。
葵の幼馴染、だけで狙うだろうか。

『【光源八剣士】の1人…。
 奴等が隆臥をそう認識している?』

そう考えると辻褄が合う。
ただ、隆臥が仲間だと云う事に
何故か江淋は意識が合致しなかった。

* * * * * *

「それで、彼女は何時覚醒するんだ?」

モニターを一頻り確認すると
聖は座ったままの姿勢で
瑠摩に声を掛けた。

膨大な資料の筈だったが
【智天子】の前では
大した意味を成さなかったのか。

「覚醒するのかどうかも…
 正直判らないな」
「やはり、無理矢理は危険か」
「……」

聖の表情が一瞬曇る。
目的の為ならば手段は選ばない。
その言葉は瑠摩よりも聖にこそ相応しい。

「まぁ、良いさ。
 【仁天子】の覚醒は確かに大きな切り札だが
 デメリットが多いのなら
 敢えて此方から呼び起こす事はしない」
「…【仁天子】は、彼女は、
 彼女の力を借りなければ
 ならない状況にだけは…
 それだけは避けるべきなんだ」
「…瑠摩?」

「彼女の力は未知数だ。
 それ故の危険性も又余りある」
「確かにな」

聖自身は気にも留めていなかった。
余りある能力故の危険性。
瑠摩に指摘され、初めて気が付いた。

「覚醒させた方が幸せなのか、
 何も知らせない方が幸せなのか。
 どっちが良いのか、判らんね…」
「その通りだ」
「諸刃の剣だな、まるで」

瑠摩は何も返しては来なかった。
それでも良い。
只の独り言なのだから。

聖は微笑を浮かべると
再びキーボードを奏で始めた。
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