Kapitel・1-5

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

「なぁ、誠希?」

何かを思い出した様に
瑠摩は口を開いた。

「何ですか?」
「どうして…2代目の時は
 【自分】だったのだろう…?」
「瑠摩様?」
「…彼女は、【仁天子】は…
 【義天子】との仲を約束されていた。
 確か、そうだった筈」
「……」

「2代目の時の出会いは…
 何か、歯車が
 【狂って】いたのかも知れないな……」
「瑠摩様、それは……」

「…彼女は、
 江淋と居ると楽しそうだったな」

誠希は瑠摩の言葉から
【寂しさ】を感じ取っていた。
何も言葉が返せず、
彼は俯いてしまう。

『役立たずだな、俺は…』

「そんな事は無いさ」
「?!」

「あぁ、済まない。
 【聴く】つもりは無かったんだ…」
「…思考を、閉じ忘れてました。
 此方のミスです」

誠希はそう言うと微笑を浮かべる。
心の声を【覗き見られた】とは
感じていない。

彼等は自身の能力、【霊気(れいき)】を用いて
テレパシーを行う事が出来るのだ。
この霊気は武器にも防具にも変わる。
そして、各人の霊気には
【属性】が備わっている。
瑠摩には【炎】、誠希には【大地】と
いった具合に。

「今は…大人しいな」

瑠摩は話題を変えた。

「…そうですね。
 不気味な位、行動を感じません…」
「…嵐の前、か」
「やはり、そう思われますか?」
「…あぁ。
 この静けさは、異常だ」

瑠摩の眼差しは
何処か遠くに向けられている。

それは過去か、
それとも未来か。

* * * * * *

「お、葵!」

江淋と帰宅の途中、
丁度隆臥に出くわした。

「隆臥…」
「こんばんわ」

江淋は隆臥に対し、深々と会釈する。

「あ…いや、その…。
 お邪魔、だった?」
「…家に帰る途中。
 送って貰ってるだけ」

葵は赤面しながら隆臥に抗議する。
彼の事だ。
【デートの最中】とでも
勘違いしているのだろう。

「そっけない奴。
 アンタも大変だね、江淋さん。
 こんなのが【彼女】でさ」
「い、いや…俺は別に……」
「隆臥ッ!!」

二人の遣り取りを
微笑ましく見守っていた江淋だったが
不意に只ならぬ殺気を感じた。

「危ないッ!!」
「「えっ?」」

江淋は葵と隆臥の体を
同時に抱きかかえる様にして
何かの衝撃から守った。

彼女等が立っていた場所には
鉄筋が地面に食い込んでいる。

「…鉄筋が、落下した?」

真っ青な葵と隆臥。

「怪我、無いか?」
「…大丈夫」
「あ、有り難う…江淋さん。
 あんなのに当たったら…
 間違いなく死んでたよ……」

震えが止まらない様子の隆臥。
葵は、ふと江淋を見つめた。

「2度目、…だね。
 貴方に命を救われたの」

感謝の想いが篭った暖かな微笑。
江淋は何も言わず、静かに頷いた。
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