Kapitel・1-7

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

「いよいよ…だな」

イギリス、ヒースロー空港。

聖は見慣れた光景を
静かに眺めていた。

「…この街の景色も
 今日で見納め、か」

もう自分が此処に戻って来る事は無い。
それは、聖が一番理解していた。

祖父の事件の真相は
日本に有るのだから。
そして…。

「…俺は全てを知る必要が有る。
 これからの為にも、な」

電光掲示板に浮かぶ
【JAPAN】の文字。
自分の故郷。

だが…それは遠い場所に感じる。

「俺の運命がこれからどうなるのかは
 日本に着けば、解る…か」

聖は自嘲的な笑みを浮かべた。

「…平穏無事な、
 安定した生活を捨てて迄。
 俺は『何を』求めてるんだろうな?」

聖にとって
【光源八剣士】の記憶は
デメリットしか齎さなかった。

この力も、彼にとっては
【煩わしい】物でしかない。

そして彼は知らない。
彼と運命を同じくする者達も又、
【同様の】苦しみの中、生きている事を。

「…俺はヒーローに生まれたかった訳じゃない」

聖はそう呟くと
小さなトランクに手を置いた。

「…時間か」

霧に霞む街を後に、
彼はターミナルへと姿を消した。

* * * * * *

「…葵?」

家に着いた途端に鳴った携帯電話。

着信が彼女と知り、
江淋は慌てて電話に出た。

「…どうした?」
『胸騒ぎがしたの。
 何だか…江淋が大変な事に
 巻き込まれてる気がして……』
「何だよ、それ?」
『自分でも解らないんだけど…』
「…サンキュ」

葵は先程の戦闘を感知したのだろう。
直感で、何かを感じ取ったに違いない。

それがセルバールと関連しているのかどうか、
そんな事はどうでも良かった。
江淋にとって、
今、こうして電話を掛けてくれた事が嬉しかった。

『どんな事が遭っても…
 俺は何者からも
 お前だけを護る』

口には出さない、
出せない…決意。

「葵、時間…大丈夫か?」
『え? えぇ…。
 明日は講義も無いし…』
「もう暫く…
 こうして話していたいんだが」
『…良いわよ。
 何だか、変だよ?
 遠慮なんてしないで良いのに』
「…そうだな」

油断すると心の奥底まで見透かされそうになる。
彼女には素直に接する事が出来る。
そんな自分が不思議だった。

幾ら否定しても、
やはり期待しているのかも知れない。

『…らしくない。
 アイツ等には突っぱねておいて
 テメェがこれじゃ……』

江淋は今の自分に対して
失笑するしかなかった。

先程の戦闘が嘘の様な
穏やかで心地良い時間が
江淋を包んでいく。

静かな、夜だった。
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