Kapitel・1-9

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

遠くでドアホンが鳴っている。
江淋は疲れから
なかなか覚醒出来ないで居た。

「…誰だ?」
「江淋?」

ドアの向こうから
心配そうな声が聞こえてくる。

「…葵か?」
「うん…。
 一寸、近く迄来たから」
「今、開ける」

江淋はふっと笑みを浮かべ
ドアに向かった。

「こんにちわ」
「…待たせたな、御免。
 入って」
「じゃあ遠慮無く
 お邪魔します」

葵は嬉しそうな様子だった。

* * * * * *

「少し疲れてる?」

珈琲カップを受け取りながら
葵は心配そうに彼の顔を見つめている。

「…少し、な」
「江淋、無理する方だから。
 お仕事も遅くまで頑張ってるんでしょ?」
「生活出来ないと困るからな。
 一人暮らしだし」

「…長いの?」
「そうだな。
 結構、長いかも知れない」
「寂しく、なかった?」
「…誰が? 俺?」
「うん…」

江淋は少し驚いた様だった。

「いや、そんな事…考えた事が無かった」
「…そうなんだ」
「寂しいって思ってたら
 一人暮らしなんて出来ないからな」
「…江淋」
「今は葵が居てくれるから
 少しも寂しくない」

江淋は穏やかな笑みを浮かべている。

「…ねぇ?」
「ん?」
「また…遊びに来ても、良い?」

江淋は軽く頷くと
テーブルに鍵を置く。

「やるよ」
「えっ?」
「此処の合鍵。渡しておく」
「…江淋」

「俺の【彼女】だもんな。
 合鍵くらい持ってても可笑しくないだろう?」

葵は頬を少し朱色に染め、
小さく頷くと鍵を手にした。

其処から広がっていく【幸せ】。

「…有難う」

そんな彼女の髪を
江淋は微笑みながら優しく撫でていた。

* * * * * *

暫し2人の時間を楽しんでいると
不意にノックの音が聞こえた。

「お客さん?」
「…そんな予定は無いが」

江淋はそう言うと
扉を開けた。

「…緋影」
「近く迄来たからな。
 寄って見たんだが…」

緋影はそう言うと
部屋の奥に視線を移した。

「客?」
「…まぁ、な」

普段は見せない江淋の動揺。
赤面し、俯くその仕草に
緋影は苦笑を浮かべる。

「紹介してくれないか?」
「…はぁ?」
「【彼女】なんだろう?
 お前が特定の女性に熱を上げるなんて
 見た事が無い」
「緋影……」
「お邪魔します」
「お、おい……」

緋影は臆する事無く
そのまま部屋に上がっていく。
後ろでは溜息を吐きながら
呆れている江淋が居る。

「あ…あの?」
「初めまして」

緋影はふっと微笑を浮かべた。

『こうしてゆっくり対面するのは初めてだな』

目の前の少女は
自分の記憶の奥で存在する
【彼女】とよく似ていた。
Home Index ←Back Next→