Kapitel・2-2

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

「ねぇ、最近隆臥の様子が変なの」

行き付けの喫茶店でアイス珈琲を口にしながら
葵は心配そうに口を開いた。

「変って?」
「何かね、神経をピリピリさせてるって感じ。
 あの状態の隆臥って怖いのよね…」
「心当たり有るのか?」
「全然……」

流石に葵は勘が良い。
オマケに幼馴染として仲が良い分
変化に関しては一度で見抜いてしまう。

「お前の勘に聞きたいんだが」
「勘って…」
「最近、隆臥の周りで不審な気配を感じないか?」
「不審な気配?」
「この間の…あの男の様な」

江淋は影法師戦の話を持ち出した。
合点は行ったらしいが、葵の反応は鈍い。
どうやら、彼女の感じた気配はそれと異なるらしい。

「どう違うか、説明出来そうか?」
「う~ん、何と言うか…不気味なの」
「不気味…」
「ハッキリしない返答で悪いんだけど…」
「いや、よく解った」

江淋は微笑を浮かべて見せたが
目は全く笑っていない。
葵を巧く誤魔化せたとは思えない。

『拙いな。かなり動きが速い』

予想以上に敵の増援が速いのだ。
悠長に仲間探しをしている余裕は無い。

『葵の感じた不気味さは
 それ相応の奴の到来と思って間違いない。
 やはり…狙いは隆臥か?
 それとも、隆臥をフェイクに
 葵を狙っているのか…』

的が絞れないまま、もう数日過ぎている。
アイス珈琲の氷が少し溶けたのか
グラスにカツンと当たって沈む。

「江淋?」
「ん? 何だ?」
「私も用心してるから」
「勿論だ」

葵は態と腕を巻くって見せる。
細身の腕に力瘤などは出ないが
安心しろ、とのメッセージなのだろう。

「お前の事は俺が守るんだ。
 どんな奴からでも守ってやるよ」

この言葉に一片の偽りも無い。
江淋が漸く見せた笑顔に
葵も深く頷いていた。

* * * * * *

いつも見慣れている紅い月、紅い夜空。
それが何故か、今宵だけ違う。
違和感が有る。

「暫く城が静かだと思っていたが…
 どうやら悪さを働いているのは変わらんか。
 場所が変わっただけ…ふむ……」

いつもの場所で雷摩はジッと
或る空間を見つめている。

この世界と、別の世界を繋ぐ【扉】を。

「どの道、影響は受ける。
 だが…俺が此処を動く事は叶わん。
 向こうの世界の事は
 向こうの奴等が処理する問題だからな」

口では素っ気無いが、心は落ち着かない。
愛器を手に暴れ回っている方が
まだ気持ちは安静を保てるというものだ。

「いずれにしろ、動く。
 遅からぬタイミングでな」

見えぬ世界、其処に存在するであろう剣士達。
いつか来る再会の日を
雷摩は孤独に待つ事になるのだろう。
彼は静かに微笑むと両目を閉じた。
Home Index ←Back Next→