Kapitel・2-11

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

ヘイネルの強襲から2週間。
隆臥は未だに満足に体が動かせない程の
ダメージを受けていた。
無意識に放った【何かの力】の所為で
予想以上に体力を消耗したのだ。

葵は毎日見舞いに訪れていた。
住む家さえも失ってしまった幼馴染。
流石に掛ける言葉さえ見付からない。
もし、自分が彼の立場で在ったなら…。

事件は放火として公表された。
犯人の存在しない凶悪事件。

「警察が事情聴取に来たけどさ…
 俺も何がどうなったのかサッパリなんだよ。
 いきなり停電して、直後に火事になって…」

それ以上の証言など出来ない。
況してや犯人の様相など。

「そう言えばさ、江淋は?」
「え?」

不意に隆臥から江淋の事を聞かれ、
葵は思わず声を上げた。
想定していなかったのであろう。

「此処に入院してから一度も会ってないよ。
 俺達を助けてくれたんだろう?
 …まさか」
「大丈夫、彼は怪我して無いから」
「なら、どうして…」
「犯人を追ってるみたい」
「犯人の事、知ってるのか?」
「そう云う訳じゃないんだろうけど…」
「警察でも難しいってのに?」
「うん…」

葵は江淋が鹿嶋財閥の関係者である事を
誰にも話してはいなかった。
彼の身上を思うと
浮付いた気持ちで話す事等出来ない。

この病院の手配も勿論、
義兄で在り、仲間で在る瑠摩が
尽力したのである。
誰に悟られる事無く、安全に。

『犯人は、判ってる。
 でも…犯人は人間じゃない』

唯一、江淋達だけが対峙出来る存在。
非常に厄介な、存在。
それが…。

「闇、一族……」

思わず口に出た葵の独り言。
勿論、隆臥の耳にも届いていた。
しかし彼はそれを追求せず
静かに目を閉じると静養に努めた。

* * * * * *

「その後、ヘイネルの動きは?」

江淋はその頃、瑠摩の私室に居た。
大画面のスクリーンに地図や数式が溢れている。

「駄目だね。感知出来ない」
「このエリアから出たのか?
 それとも一時的に戻っただけか?」
「後者の可能性の方が高いね」

キーボードを忙しなく叩きながら
聖が静かに返答する。

「報告に戻ったんじゃないかな?
 あの調子だとまた近い内に出現するよ」
「奴の狙いは?」
「さぁ? 俺はヘイネルじゃないから」
「……」
「だが、【義天子】が相当ご立腹な様子だから
 敢えて想定して返答してみせようか」

ニヒルな笑みを浮かべながら
改めて聖は江淋と相対する。

「俺ならば…行方知れずの【仁天子】捜しよりも
 復活間無しの八剣士潰しを優先する」
「…成程。八剣士が揃わなければ勝てる、と」
「まぁね。しかし…それを逆転させるのが【仁天子】の存在」
「……」
「今回は諦めても、いつかは必ず照準を合わせる。
 俺達を完全に消滅させる為には…ね」

江淋は聖に対し、何も答えず
そのまま部屋を後にする。

「おい、江淋…」
「放っておけ、誠希」
「しかし…瑠摩様…」
「江淋は彼女の元に向かっただけだ。
 最愛の女性の元にな」

瑠摩を筆頭に、誠希、緋影、聖は
江淋が去ったドアを黙って見つめていた。
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