Kapitel・2-12

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

『俺ならば…行方知れずの【仁天子】捜しよりも
 復活間無しの八剣士潰しを優先する』

聖の台詞が脳裏に何度か繰り返された。
敵にとって脅威なのは【八剣士の集結】であり、
それを断念させる為ならば
どんな手を尽くしてでも妨害に講じるだろう。

「そう云う奴等だ。
 俺だって今迄、散々見てきた」

江淋はそう呟くと、目を細めて天を見上げた。
決まって思い描くのは
5歳の時に離れ離れとなった双子の兄。

「魁淋が無事であれば…
 俺が戦う理由は無くなると思っていた。
 早くその日が来れば良いとさえ…思っていた」

だが、現実とは無情なもので
結果として彼は以前よりも
戦場から離れられない状況に居る。
光源八剣士の転生体として
最も実戦を積んだ者だからこそ。

生まれ変わっても尚
彼は【闘神】なのだ。

「世界を救うとか大それた事を思う訳じゃないが
 惚れた女位はこの手で護りたい。
 エリオスも、二代目も…
 きっと、同じ思いだったんだろう……」

世界に匹敵する唯一人の愛すべき存在。
それだけが、己の戦う理由であり
存在意義なのである。

「魁淋。俺は信じている。
 お前がきっと無事でいてくれる事を。
 生きていれば、必ず会えると」

目の前で煌く星に微笑を浮かべ
江淋は帰路に着いた。

* * * * * *

「時々、戦いそのものが空しくなる」

青空の元、そう言って寂しく笑う青年に
どう声を掛ければ良いのか判らなかった。

座ったまま見上げると
彼の表情は太陽の光に遮られ、
段々と影に覆われていってしまう。

「そもそも俺は、何の為に生きているのか。
 他者の生命を奪う為だけしか生きられないのなら
 存在する事にどれ程の価値が有るんだろう…?」
「……」
「だからと言って、此処で自害しても
 奪った生命が還る訳じゃない。
 贖罪にすらならない生を
 ただ、怠惰に浪費するしかない定め。
 【神】と持て囃された所で
 俺には何も残らないし、何も変わらない…」
「それでも……」

少女の声は優しく、しかし力強く
そんな青年に向けられる。

「それでも、貴方が今此処に居る事は意味が有る。
 少なくとも…私は、貴方を欲している」
「……」
「私の為にだけ…生きてくれますか?」
「セルバール?」
「そう言えば、貴方は生きてくださいますか?」
「……」
「貴方を喪うと言う事は、
 私の存在意義が消滅すると言う事なのです」

春の穏やかな陽だまりの様に
少女は笑みを浮かべている。
遠い記憶に残る母親の笑みと…よく似ていた。

「有難う、セルバール…。
 では俺は、君の為にだけ生きよう」
「エリオス……」
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