瑠摩は静かに机へと向かう。
【光一族】でありながらも
光を必要としない瞳。
椅子を手前に引き、ゆっくりと腰をかけて
静かに一息吐く。
闇に吐息が溶けてゆくのが判る。
「…動きの速さは或る程度
予測していた筈なんだが、やはりな。
実戦では敵わない、と云う事か…」
嘗ての自分は実際に戦場に立って
状況判断するタイプの戦士だった。
今と昔の違いに
我が事ながら苦悩している。
「今の俺では…仲間の足手纏いに
成りかねないだろうか。
実際に戦ってみないと…
何とも言い様が無い。
何処まで戦えるのか。
一体、俺に何が出来るのか…」
机の上に置かれた書物に手を添え、
瑠摩は再度溜息を吐いた。
「光源…八剣士、か…」
何もかも喪って…
それでも戦わなければならなかった。
守るべき君主も、国も無いのに…
生き残って何になると言うのか。
何処までも続く田んぼの畦道。
疲れた体に鞭打って
一歩、又一歩とゆっくり前に進む。
まだ死なせる訳には行かない。
こいつ等はまだ歳若い。
このまま人生を終わらせる訳には行かない。
それが、我が君主と交わした約束。
その思いだけで、此処迄逃げてきた。
「瑠摩…」
「大丈夫だ、葵。追っ手は来ない。
もう少し歩けば一息吐ける」
「……」
「どうした?」
「どうして、こうなってしまったんだろう…?」
「……」
答えられない。
それは俺も、同じ考えだ。
だが…。
「今は『答えを見付ける』時じゃない。
だが、その時は必ず来る。
焦るな。必ず来るから」
涙ぐむ葵にその位しか声を掛けられない
自分に苛立ちつつも…
今は生き残る事だけを考えるべきだと
俺は改めて痛感した。
「…夢、か」
転寝で夢を見ていた様だ。
あの姿は…二代目として転生した時か。
夢として見るのは久しぶりだ。
あの時の無念すら、鮮明に思い出せる。
俺がこの世界に生まれてきた意味。
それを…しみじみと実感させる。
「俺は【光源八剣士】、【戒天子】の瑠摩…。
その様に生き、その様に逝くしかない」
そう、それが俺の【答え】だ。
微かに記憶に残る幻に対し
俺は決意を改める。
今はまだ、その正体を掴む事が出来ない。
だが、いつか必ず…。
【奴】に、問い質さねばならぬ事がある。
どんな手段を用いても、
聞かなければならぬ事が…
確認しなければならぬ事が、存在する。