Kapitel・2-13

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

薄暗い私室の明かりを点ける事無く、
瑠摩は静かに机へと向かう。

【光一族】でありながらも
光を必要としない瞳。

椅子を手前に引き、ゆっくりと腰をかけて
静かに一息吐く。
闇に吐息が溶けてゆくのが判る。

「…動きの速さは或る程度
 予測していた筈なんだが、やはりな。
 実戦では敵わない、と云う事か…」

嘗ての自分は実際に戦場に立って
状況判断するタイプの戦士だった。
今と昔の違いに
我が事ながら苦悩している。

「今の俺では…仲間の足手纏いに
 成りかねないだろうか。
 実際に戦ってみないと…
 何とも言い様が無い。
 何処まで戦えるのか。
 一体、俺に何が出来るのか…」

机の上に置かれた書物に手を添え、
瑠摩は再度溜息を吐いた。

「光源…八剣士、か…」

* * * * * *

何もかも喪って…
それでも戦わなければならなかった。
守るべき君主も、国も無いのに…
生き残って何になると言うのか。

何処までも続く田んぼの畦道。
疲れた体に鞭打って
一歩、又一歩とゆっくり前に進む。

まだ死なせる訳には行かない。
こいつ等はまだ歳若い。
このまま人生を終わらせる訳には行かない。
それが、我が君主と交わした約束。
その思いだけで、此処迄逃げてきた。

「瑠摩…」
「大丈夫だ、葵。追っ手は来ない。
 もう少し歩けば一息吐ける」
「……」
「どうした?」
「どうして、こうなってしまったんだろう…?」
「……」

答えられない。
それは俺も、同じ考えだ。
だが…。

「今は『答えを見付ける』時じゃない。
 だが、その時は必ず来る。
 焦るな。必ず来るから」

涙ぐむ葵にその位しか声を掛けられない
自分に苛立ちつつも…
今は生き残る事だけを考えるべきだと
俺は改めて痛感した。

* * * * * *

「…夢、か」

転寝で夢を見ていた様だ。
あの姿は…二代目として転生した時か。
夢として見るのは久しぶりだ。

あの時の無念すら、鮮明に思い出せる。
俺がこの世界に生まれてきた意味。
それを…しみじみと実感させる。

「俺は【光源八剣士】、【戒天子】の瑠摩…。
 その様に生き、その様に逝くしかない」

そう、それが俺の【答え】だ。
微かに記憶に残る幻に対し
俺は決意を改める。
今はまだ、その正体を掴む事が出来ない。
だが、いつか必ず…。

【奴】に、問い質さねばならぬ事がある。
どんな手段を用いても、
聞かなければならぬ事が…
確認しなければならぬ事が、存在する。
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