Kapitel・2-14

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

襲撃から更に2週間が過ぎた。
多少体も自由が利く様になってきたのか、
隆臥はベッドで上体を起こし
病室から空を見上げていた。

穏やかに流れる雲。
いつもなら何気なく見上げる雲に
どうして今はこんなにも不安を感じるのか。
それが、隆臥には理解出来なかった。

『色々な事が起こり過ぎただけ』

そう思う様にしている。
そうでも考えなければ
この一連の出来事は不可解過ぎて
思考がついて行けないのだ。

「隆臥!」

病室に届く声。
思わず顔を綻ばせた。

「葵」
「今日もお邪魔しに来たよ。
 調子はどう?」
「見ての通り。
 大分長い間座っていられる様になったよ。
 調子が戻って来た証拠だね」
「それなら良かった!
 あ、これは今日の差し入れだよ。
 銘風館の最中」
「余り気を使うなよ、女子大生。
 懐具合大丈夫か?」
「へへ…まぁ、何とかなる範囲でですよ」
「なら良いけどさ」

隆臥はふと葵の背後に眼をやる。
誰かを探すかの様な仕草。
葵はその相手が誰なのか
言わずとも解っていた。

「江淋に、会いたい?」
「俺が会いたいってよりも…
 お前とこうして二人で居るとさ
 錯覚するから」
「何を?」
「…態と恍けてるなら可愛げ無いぞ?」
「其処迄自意識過剰じゃないわよ」
「なら心配要らないか」
「心配性は相変わらずだね、隆臥」
「…お前の【幼馴染】を長年やってればね」
「隆臥……」

気付かなければ幸せで居られただろうか。
気付いてしまった【想い】を
見て見ぬ振りしていれば
又あの頃に戻れると云うのだろうか。

そんな事が脳裏を過ぎり
隆臥は自嘲気味にフッと笑った。

* * * * * *

紅い空が一瞬だけ鮮やかな蒼に染まった。
雷摩は眉間に皺を寄せる。

「甦った…?」

思わず声を漏らしてしまう。
此処じゃない世界で、確かに仲間は存在する。
雷摩はこの現象を目にする度に
仲間の復活を感じ取っていた。

「果たして…この世界に辿り着けるだろうか。
 全てはこの世界から始まり、
 この世界に於いて終わると云うのに…」

再び月が紅く輝き始める。
間も無く夜を迎える。
この世界の住人達が最も好む時間。
そして、血の臭いが一層漂う時間。

「さて、そろそろ始めるとするか」

愛用の武器である手斧を構え
雷摩は遠くを見つめた。
姿は見えずとも
殺気でその存在は感じている。

「そろそろもう少し歯応えが欲しいな。
 雑兵を何千、何万送り込んだところで
 この俺を倒す事等不可能だと学べよッ!!」
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