Kapitel・2-16

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

「済まないな、呼び出したりして」
「いや…。構わないよ」

狭い病室内でかわされる会話。
そして、暫しの沈黙。

「…江淋」
「ん?」
「…犯人、捕まったのか?」
「いや、まだだ」
「そうなのか…」
「済まん」
「いや、違う。違うよ。
 江淋の所為じゃないよ」

隆臥は慌てて首を横に振る。

「葵から話は聞いてたよ。
 本当に…有難うな、色々と」
「俺は何もしてないよ」
「礼位、言わせてくれよ」
「…隆臥」
「有難うな、江淋」

爽やかな春風の如き、
そんな優しい微笑だった。

「母親の調子はどうだ?」
「ん…。俺程じゃないけど
 大分良くなってきてるってさ」
「そうか…。良かったな」
「まぁ、まだ油断は出来ないけどね」
「そりゃそうさ。
 充分に休んでもらわないと」
「…そうだね」

視線を窓に向け、江淋は目を細める。
青空を見上げながら、微動だにしない。

「大切にしろよ」
「?」
「お前の、母親を…な」
「江淋…」

江淋には家族が居ない。
その事実を葵からさり気無く聞いていた。
彼のこの言葉には
守れなかった自身の母親への思いが
篭められていたのかも知れない。

「…勿論だよ、江淋。
 約束する」
「信じてるぞ、隆臥」
「あぁ!」

静かに振り返る江淋の瞳は
穏やか且つ優しげなものだった。

* * * * * *

その日の晩。

隆臥は左肩に鋭い痛みを感じていた。
燃える様な熱さと痛み。
肌を焼かれる様な感覚。
痛みを感じている筈なのに、声が出ない。
寧ろ余りの激痛に声を奪われたか。
ベッドの上でのた打ち回る事も叶わず
只々、時間の経過だけを感じていた。

痛みが止んだのはどれ位経過してからだろう。
全身の倦怠感と酷い汗。
朧げに時計を見るが
時間は左程経過していない様だった。
僅か数分の出来事。
それが、これ程迄に長く苦痛だったとは。

「一体…何が遭ったんだ?
 俺…どうなっちまうんだろう?」

不安だった。
とにかく、不安だった。
自分が自分で無くなってしまうかの様な
そんな恐怖さえ感じていた。

「…怖いよ」

唯一人の病室で、思わず漏れた本音。
隆臥は不安で押し潰されそうだった。

* * * * * *

同時刻。

「?!」

自室で作業中だった瑠摩は
左肩に激しい痛みを感じていた。
同時に、普段は隠れている痣が
前髪の間から発光して現れた。

【光源八剣士】のみがその身に記すとされる
戦士の証、【光源文字】である。
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