Kapitel・2-17

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

この焼け付く様な痛み。
よく、覚えている。
この額に刻み込まれた銀色に輝く【光源文字】が
あの時の痛みを忘れなどさせない。

自身の額にゆっくりと手を添えながら
瑠摩は【その時】が訪れた事を感じ取っていた。

「目覚めたんだな、【信天子】隆臥」

喜べば良いのだろうか。
確かに、探していた仲間が見付かった事は
素直に喜ぶべき事であろう。

だが、同時に悲しくも感じていた。
やがて来る戦いに
【彼】を巻き込まなければならない事。
それは避けられない戦い。
そして繰り返されてきた宿命。

「望まざる戦いに…身を投じなければならない。
 この世界の為に…いや、
 きっとそれは【自分自身の為】に…」

【悲しみ】が己を支配する度
自分は戦士としてどうなのかと自問自答する。
悲しみなど感じる暇が無い位に
戦いに没頭出来れば…幸せだったのかも知れない。
そう、嘗ての江淋の様に。

「俺は…彼奴が羨ましいのかも知れないな」

そう、自嘲気味に笑ってみせる。

空しい。

正直な自分の心の声に耳を塞ぎ、
気付かない振りをする為に。

* * * * * *

夜中にメールの着信音が鳴り響く事等
今迄一度も無かった。
緊急事態に巻き込まれ易い江淋は
逆に彼女への連絡を控える程である。

「…誰?」

眠い目を擦りながら
葵は自身の携帯画面を確認する。

「…隆臥?」

慌ててメール内容を見てみる。
題名は無い。
本文に只一言。

【助けて】

それが何を意味するのかは判らないが
葵の指は瞬時に或る番号を叩いていた。
江淋の携帯番号である。

寝ているか、それとも仕事か。
そのどちらでもなければ出てくれる筈だ、と。
縋る様な気持ちでその時を待つ。

『はい』

2コールで江淋の声が聞こえた。

「私。葵!」
『それは判ってる。
 何が遭った?』
「隆臥から、メールが…。
 【助けて】って」
『隆臥から?』
「そうなの。どうしたら…」

江淋は何かを考えていたらしい。
暫くの沈黙の後
意外な答えが返ってきた。

『直ぐに服を着替えるんだ』
「えっ?」
『これから隆臥の所へ向かう。
 一旦、お前を迎えに行くから』
「で、でもどうやって…」

其処迄言葉を続け、漸く葵にも合点が行った。
今は深夜。
夜間面会の時間も終わり
本来であれば隆臥の病室に立ち入る事は出来ない。
だが、江淋はテレポーテーションを行える。

『隆臥はお前に助けを求めている。
 幼馴染だからこそ、
 助けられる事だって有るだろう?』
「江淋…有難う」
『準備が出来たら再度連絡をくれ』

多少急かせる様に、江淋の電話が切れる。
それを合図に、葵は勢い良くパジャマを脱ぎ捨て
外出着に着替え始めた。
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