Kapitel・2-18

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

江淋と共に時間と空間の狭間を跳ぶ。
生まれて初めてのテレポーテーション。
光の洪水の中、流れる様に
吸い込まれる様に、真っ直ぐ進んで行く。
長い様で短い様な、不思議な感覚。

力強く肩を抱く江淋の大きな手が
何よりも葵には安心出来た。

『隆臥、待ってて!
 今 行くから!!』

* * * * * *

照明を落とした暗い廊下。
なるべく音を立てない様に注意しながら
そっと隆臥の居る病室の扉を開いた。
暗闇の中、ベッドの上で
何かがボンヤリと水色に輝いているのが見える。

「…隆臥?」
「あ…おい…」
「どうしたの? 隆臥」
「葵、待て」
「えっ?」

不意に江淋が腕を取る。
驚いて葵は振り返り、彼の顔を見た。

「不用意に近付くな。
 【霊気】が暴走を始めている」
「【霊気】が…暴走?」
「このまま放置すると病室を中心に
 街の大半が吹っ飛ぶぞ」
「ど…どうすれば…?」
「大丈夫だ。
 【霊気】の方が俺が抑えてみせる。
 だからお前は…」
「隆臥を落ち着かせれば良いのね」
「御名答。流石だな」
「隆臥の事は私に任せて。
 だから江淋、【霊気】の方はお願いね」
「あぁ。隆臥を、頼んだぞ」

江淋は意識を集中させて
自らの【霊気】を一気に放出させる。
江淋の【霊気】で隆臥のそれを包み込んだのだ。

「隆臥、聞こえる?
 隆臥、私だよ! 葵だよ、隆臥!」

何度も繰り返し、葵は隆臥の名を呼んだ。
ベッド迄の距離がとても長く感じる。
一歩、又 一歩と進む度に
強い空気圧の抵抗を受けた。

自分を拒んでいるのだろうか。
隆臥自身が拒絶しているのだろうか。

「…それでも」

諦める訳には行かない。
何故なら隆臥は。

「私の大切な幼馴染。
 私の【兄さん】だもの!」

透明な壁を打ち砕く様に突き進み
漸く葵は隆臥を抱き締めた。

「隆臥! 私、来たよ!
 隆臥っ!!」
「…あ、おい?」
「そうだよ、隆臥!
 助けに来たよ!!」
「葵…。葵…っ!」

正気を取り戻したのだろう。
隆臥は葵にしがみ付き、
子供の様に泣き出した。
それと共に彼を守る様に
存在していた水色の【霊気】も
スッとその姿を消したのである。

「…上出来だ」

その様子を見届けた江淋は
フッと笑みを浮かべると、
自分の蒼い【霊気】を収めた。

「葵、俺は暫く席を外す。
 隆臥の事、宜しくな」
「江淋……」

気を利かせてくれたのだろう。
江淋の心遣いに感謝しながら
葵は優しく隆臥を抱き締めた。
まるで、母親の如く。
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