Kapitel・2-19

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

暫くこうして抱き締めていると
隆臥も幾分か落ち着きを取り戻したらしい。

「…有難う、葵。
 もう大丈夫だよ…」
「本当に?」
「あぁ…、何とかね」
「なら、良いんだけど。
 無理はしちゃ駄目だよ」
「解ってるって。
 で…江淋は、何処?」
「江淋ならきっと部屋の外だよ」
「呼んでくれないか?」
「江淋を? それは良いけど…」
「頼む」
「…うん」

やや不本意ながら
葵はそっと隆臥の体を離すと
足早に扉へと進む。
扉の向こう側から気配を察したのか
江淋はそっと扉を開けて部屋に入って来た。

「大丈夫か?」
「えぇ。隆臥が、貴方と話をしたいって」
「俺と…」
「うん。じゃあ、私が今度は外かな?」
「そんな無用心な事させられるか。
 一緒に話を聞けば良い」
「そう? お邪魔じゃない?」
「何か勘違いしているようだが…
 お前にとっても既に【他人事】では無い筈だ」
「…そう云う事、か」
「普通は察するだろ?」

呆れた様子で溜息を吐きながら
江淋は隆臥の元へと向かった。

* * * * * *

隆臥は徐に寝巻きを脱ぎ出した。
赤面し、慌てて顔を手で隠す葵と
黙ってその様子を見つめる江淋。
江淋には、隆臥の意図が解っていた様だ。

「これが急に現れたんだ」

隆臥はそう言って自身の左腕に現れた
銀色に輝く【信】の文字を見せた。

「これが出て来た途端、
 腕や全身が焼いた様に熱くて、痛くて…」
「これは…【光源文字】だ」
「【光源文字】?」
「知ってるの? 江淋」
「知ってるも何も」

そう言いながら、今度は江淋が
自身の胸元を開いてみる。
其処には隆臥と同じく、銀色に輝く文字が。

「俺の【光源文字】は【義】だ」
「江淋…」
「【光源文字】は…
 【光源八剣士】と呼ばれる戦士のみが
 その身に宿す事が出来る」
「江淋…?」
「つまり、俺達は…」
「そう、俺もお前も【光源八剣士】の一人。
 お前は【信天子】と呼ばれる風の戦士」
「……」
「江淋…。じゃあ、瑠摩さん達も…」
「…そう云う事だ。
 何れ力も記憶も取り戻す。
 【光源文字】が出現する時の痛みも
 やがて感じなくなっていくさ」
「…そうだったんだ」

隆臥は何処かで納得した様だった。
自分と母親が襲われた事も
自分が【戦士】であれば
理解出来ない事でも無い。

「光源、八剣士…」

葵も又、漸くこの戦いの一端を見た気がした。
有無を言わずに巻き込まれ、
戦場を何度か体験したが
【何の為の戦い】であるか迄は
解らなかったのだ。
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